本研究は,第二言語(外国語)を用いて自発的にコミュニケーションを行おうとする意志(L2WTC)と外国語学習不安(FLA)が,どのような相互作用のもとで,どのように生起・変動し,それが学習者の言語使用にどのような影響を与えるのかについて,特に,力学系理論(DST)をその理論的基盤として明らかにすることを目的とするものである。 研究最終年度となる令和元年度は,L2WTCとFLAの相互作用を説明する構成概念モデルとして,本研究で構築したL2WTC-FLAアトラクター(attractor)モデルに基づいて,L2WTCとFLAの相互作用による生起・変動の様相並びにコミュニケーション行動への影響の解明に取り組んだ。L2WTCーFLAアトラクターモデルは,L2WTCとFLAの相互作用の安定状態であるアトラクターと,その前後の変動であるアトラクター相転移を,ミクロ発達(microdevelopment),メソ発達(mesodevelopment),マクロ発達(macrodevelopment)の3つの時間尺度に従って解明・記述しようとするものである。 英語圏における長期留学経験のある日本人大学生7名を対象に質問紙調査並びにインタビューを実施し,そのデータを分析した結果,一瞬一瞬の変動であるミクロ発達では,コミュニケーションの成否による安心,喜び,満足や,緊張感,欲求不満,失望,無力感などが,また,数時間から数週間にわたるメソ発達では,コミュニケーションの失敗や異文化への不適応によるネガティブな気分(mood)が,さらに,数ヶ月から数年にわたるマクロ発達では,異文化における自分の新たな役割や立場,また,安定した人間関係等によるコミュニケーションに対する固定観念や態度が,それぞれ生起し,それらがそれぞれの時間尺度でコミュニケーション行動に対する積極性や消極性に影響を与えていることが示唆された。
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