研究課題/領域番号 |
15K02750
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中川 裕之 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (10275000)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スイス / レト・ロマン語 / 多言語・多文化主義 / ドイツ語 / 少数言語 / グラウビュンデン / マイノリティ / ヨーロッパ |
研究実績の概要 |
多言語・多文化国家スイスのカントン・グラウビュンデンに点在する複数の言語・文化拠点を中心に、通時的・共時的観点から、社会言語学的研究と異文化コミュニケーション的研究を進めている。第一に通時的観点からは、歴史的に重要な文献の調査を行い、レト・ロマン語の書きことばの成立時の状況の把握に努めている。第二に共時的観点からは、母語話者に対してインタビュー調査を実施することにより、アクチュアルな言語文化状況の把握に努めている。本研究の対象言語であるレト・ロマン語は、五ないし六種類の地域変種から構成されている。ヨーロッパの中立先進国として名高いスイスにおいて、とりわけカントン・グラウビュンデンは、その多言語・多文化に関する諸課題が比較的よく観察できる希少な地域である。当地域は、スイスの大言語であるドイツ語とともに、元来の母語であり小言語であるレト・ロマン語が通用する二言語併用地域であることから、マジョリティのことばに対するマイノリティのことばといった一種の階層的関係が観察できるという点は重要である。当地域における多言語・多文化主義の、過去と現在の状況および将来展望と、ことばとアイデンティティとの関わり、隣接住民との平和的共生に向けた努力、克服すべき諸問題の解明といった個別的・事例研究の蓄積を通じて、最終的には社会言語学的・異文化コミュニケーション的観点から見た、類型的・普遍的諸要因の抽出を目指している。本研究成果の一部として、2015年度には、レト・ロマン語の書きことばの成立に関する論文を執筆するとともに、レト・ロマン語住民のマイノリティとしての事情を論じた関連文献の翻訳を行い公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スイスのカントン・グラウビュンデンにおける大言語としてのドイツ語に対する小言語としてのレト・ロマン語の異文化コミュニケーション的談話分析とテクスト分析を行った。具体的には、当地域の言語文化社会的諸関係に着目し、通時的観点から文献学的調査と、共時的観点から社会調査を実施した。レト・ロマン語を構成する諸方言のうち、スールセルヴァ方言とピュテール方言、ヴァラーデル方言、ヤウアー方言などの諸地域に散在する言語研究所や図書館、博物館などの言語文化拠点を訪問し、当該領域における研究者・専門家・作家・教育関係者たちにインタビュー調査を行った。このことにより、当該分野の研究者たちと密接に連携し常時意見交換が可能な基盤状況を構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の実地調査研究から明らかになった諸問題を掘り下げるべく、スイス国内はもとより、ドイツなど近隣諸外国に点在し、本研究遂行にとって必要不可欠な、言語文化・地域社会・教育機関・報道部門などの各分野におけるレト・ロマン語関連の各種公的機関の研究者や専門家、図書館等を訪問し、通時的観点からの文献研究と、共時的観点からの異文化コミュニケーション的・社会言語学的研究に引き続き積極的に取り組む。専門家との意見交換を通じて自らのポジションを確認しながら、得られた研究成果を社会に還元するため、研究発表、論文公刊、翻訳を積極的に行うとともに、翌年度以降の、共生可能な多言語・多文化論の構築に向けた、さらなる基盤整備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数が出たため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究遂行に必要な書籍購入費に充当する。
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