スイスの小言語レト・ロマン語の言語文化を考察した。過酷な自然環境にありながら列強諸国が行きかう交通の要衝に位置するグラウビュンデンはドイツ語を併用しつつもいまだアイデンティティを失っていない。言語的にも、他に対して門戸を開き、多様性を受容したことがその要因の一つと考えられる。歴史的には、聖書を現地語に翻訳し地域住民の啓蒙と識字教育につなげた点が特筆される。5方言から統一標準語構築の試みは、他国からの独立と自国を多言語国家と位置付ける象徴になったが、必ずしも地域住民には受容されていない。憲法にレト・ロマン語を国語と定める国策と、住民の旺盛な独立心が符合して、地域の言語文化の存続につながっている。
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