本研究は、外国語習得効率の個人差を生み出す様々な要因から、記憶力の要素を構成する音韻記憶の外国語のオーラルコミュニケーション能力への影響の大きさを調査することを主たる目的として実施された。具体的には、先行研究ではまだ十分に明らかにされていない2種の異なるレベルの音韻記憶(短期記憶と作業記憶)それぞれの外国語のリスニングスキルとスピーキングスキルに与える影響の大きさを量的データ分析で明らかにすることに加え、質的データを分析することで高い能力の背景にある要因(生育・生活・学習環境・動機・学習不安等)を明らかにすることを、目的として実施された。 今年度は、120人の被験者に協力してもらい、音韻的短期記憶力テスト、音韻的作業記憶力テストと、英語能力テストを受験してもらった。また、これらの量的データ結果から、テストスコアの上位10%の被験者を抽出して、対象者に個別インタビューを実施した。 テストのスコアの分析の結果、音韻的作業記憶については、リスニングスキルとスピーキングスキル両方に有意な影響を与えていることが示唆された。一方、音韻的短期記憶力については、スピーキングスキルのみに影響を与えていることが示唆された。また、成績上位者へのインタビューから、高い能力を示す学習者の特徴として、異文化に対する高い興味や幼い時から外国語に親しむ環境にあったことが示唆された。学習者個々の音韻的短期・作業記憶力は、これまで外国語の指導現場であまり考慮に入れられることがなかったが、記憶力のオーラルスキル習得に影響力があることを示した本研究結果は、今後の英語指導現場における、より良い学習者理解につながると考えれ、さらなる指導の効果の向上に貢献するものであると思われる。
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