研究課題/領域番号 |
15K02756
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
奥脇 奈津美 都留文科大学, 文学部, 教授 (60363884)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 定型連語 / 第二言語習得 / 定型性 |
研究実績の概要 |
第二言語習得において,近年,語彙の重要性が認識されるようになっているが,そのなかでも,より自然に,効率的に第二言語を使用するためには、処理単位としてのチャンクやコロケーションなど,定型連語(formulaic sequences)の習得が不可欠であると指摘されるようになった。これまでの第二言語語彙研究では,語を1語単位で扱うことが多かったが,今年度の研究では,複数個のまとまった単位として語を扱い,連語全体として処理していくことの重要性について検証した。 具体的には,これまでの研究から,定型連語表現は、定型的でない同等の表現に比べて有利な言語処理が行われることがわかっているが、主に母語話者にみられるその優位性が、第二言語学習者の言語処理にもみられるかどうかについて検証した。第二言語学習者64名に対し、30の定型表現と30の非定型表現を提示し,その処理の反応時間を調べたところ、学習者は,言語の定型性に敏感であり,定型連語を有意に速く,正確に処理することがわかった。一方,頻度による差は見られなかった。定型連語と非定型連語は,シラブルの数や構成要素の語の頻度は統制したので,この処理の優位性はその他の要因ではなく,定型性に起因するといえると結論付け,この結果を学会で発表した。 このように,今年度の研究では,中級レベルの第二言語使用者も,定型連語を非定型連語よりも速く正確に処理することをしめした。このことは,語彙がメンタルレキシコン内でどのように貯蔵されているのか,という問題に示唆的である。言語教育においても,より自然に,効率的に第二言語を使用するために,言語の定型性という概念を重視することの必要性を示しており,今後の英語教育のひとつの方向性を提示している点においても意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は,第二言語学習者から定型連語の産出に関するデータを収集し,第二言語習得における定型連語表現の使用状況を明らかにして英語教育への示唆を得ることができた。その結果に基づき,今年度は,定型連語の処理に着目し,心理言語学的な手法を利用して調べ,学会発表につなげることができた。 具体的には,昨年度までに行っていた理論的研究に基づき,今年度当初から,実験の計画を練り,実験ツールの作成を始めた。その後,1か月をかけて,60名あまりの英語学習者を集めて一人一人実験に参加してもらい,早い段階でデータの収集を終えることができた。始めて使用する実験ツールであったため,データの分析には多少時間を要したが,学会発表がすでに予定されていたので,その後の作業は迅速に進めることができた。 また,夏からは,次年度の学会発表に向けて新たなデータ収集を開始した。これは,8名の参加者の言語発達を長期的に多方面から調査するもので,一人一人から時間をかけてデータを収集した。非常に時間と手間がかかるデータ収集であるが,これを数か月で終えることができ,データも十分に収集ができたため,分析については次年度から始めることができることになった。さらに,本年度の後半では,次年度の研究計画のための文献研究を進めることができ,本年度の終わりには,これまでの理論的研究を論文としてまとめることができた。 以上のことから,進捗状況としては,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,第二言語習得における言語経験の役割について,長期間の英語圏での言語経験が,学習者の語彙力,ライティング力,スピーキング力にどのような効果をもたらすか,特に定型連語の習得という観点から,検討していきたい。データはすでに収集してあるので,まずは,データを形として整え,分析方法についての方針を決定することから始める。そのあと,数値化できるデータについては統計処理を行い,コード化が必要なデータについては英語母語話者の協力のもと,解析を順次進めていく。結果については,11月の台湾の学会で発表する予定である(採択済)。そのあと,この研究について論文にまとめる。 また,今年度は最終年度でもあるので,学会にも積極的に参加して情報収集に努め,これまでの研究をベースに,最新の知見を反映できるよう,新しい研究や論文を中心に理論的研究を引き続き行う。 さらに,これまでの研究結果を統合したときに,第二言語における言語の定型性について何がいえるのか,提示する必要がある。これから行う次年度の実証的研究も含め,本研究課題でこれまで行ってきた研究については,個々には発表してきたものの,まとめた形では発表していない。今後,これまでの理論的研究からの知見をまとめ,いくつかの実証的研究の結果を統合して,第二言語習得における言語の定型性について,また,今後の英語教育への示唆について,最終的に一つの論文にまとめて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加する予定であった国内の学会に,日程の都合で行くことができなかったため,その分の旅費と学会参加費が残っている。また,プリンタ1台とインクなどの消耗品を購入する予定であったが,研究室のモノクロプリンタを使用していて,購入を延長していたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後はモノクロではなくカラーのプリンターが必要になり,また使用頻度も高くなるため,カラープリンター1台とインクなどの消耗品を購入しする予定である。また,次年度は学会参加を積極的にする予定なので,その予算にあてる。
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