研究課題/領域番号 |
15K02771
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
吉田 幸治 近畿大学, 経営学部, 教授 (60319762)
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研究分担者 |
睦 宗均 近畿大学, 理工学部, 准教授 (20581573)
平井 大輔 近畿大学, 経営学部, 准教授 (60510493)
堤 良一 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (80325068)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 束縛原理 / 指示関係 / 第二言語習得 / 英語教育 / 日本語教育 / 構造依存性 / 文脈依存性 |
研究実績の概要 |
2016年度は当初の予定通りに(1)英語を第一言語とする日本語学習者と(2)韓国語を母語とする日本語学習者を対象する現地調査を行った。調査はカナダと大韓民国の二国で大学生と高校生を対象として行い、一定量のデーターを収集することができた。 調査の具体的内容は、(a)母語における束縛原理のパラメーター設定の状態、(b)学習中の第二言語における束縛原理の習得状況、(c)母語の干渉およびUGとの関連がどのように発露しているのか、という三点を確認するためのアンケート調査の実施が中心であったが、この調査と前後して現地の教育政策・日本語教育の実態・語学教育の現状についても調査を行った。 収集したデーターの詳細な分析は2017年度の課題であるが、現時点で明らかな事実として、日本語の「自分」を含む指示関係の理解は日本語学習者にとって容易なことではなく、理論的予想通りではあるが、印欧語を学習する場合よりも困難さを伴うことが多いということである。従来から指摘されていることではあるが、「構造的依存性」が日本語の指示関係においては印欧語よりも低いことが改めて浮き彫りになったといえる。 こうしたデーター収集と並行して、(i)生成文法的接近法の見直し(吉田・平井)、(ii)動詞の相特性の再考(睦)、(iii)記憶にもとづく指示用法(堤)などの研究を行い、共同研究者間でその成果を報告し合った。一見すると無関係な個別の研究ではあるが、束縛原理の本質に迫るために必要となる「構造依存性」と「文脈依存性」の両面を再検討するうえで相互関連する研究となっている。また、いずれの研究も教育への応用を視野に入れたものであり、英語教育・日本語教育へ還元可能な成果を含んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「第二言語としての日本語習得」を調査するために、日本国内における留学生を対象としたデーター収集を行う予定であったが、調査を依頼していたいくつかの研究機関から協力を得られない事態が発生し、この調査に関しては2017年に持ち越すこととなった。 また、当初は2016年度内のアメリカ合衆国での調査も予定していたが、同様に予定の調査機関から協力辞退の申し出があり、データー収集を断念せざるを得ない事態となった。その結果、当初の予定を変更し、カナダのカルガリー大学での調査を実施することとなったが、一定量のデーターを収集することには成功した。 データーには量的・質的に不満が残る部分もあるが、信頼性の高いデーターを得ることができ、今後の分析には利用価値のあるものとなっている。本研究課題の目標には、従来の研究で不足しているデーターを収集することも含まれているが、この点に関してはある程度まで目標に近づくことができており、データーの処理を慎重に進めることによってより価値のある洗練された資料にすることが課題である。 成果の公表という面では、少し遅れている面もあるが、データー処理が終了した段階で十分な考察を行い、不足する面を補うことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
日本国内における日本語学習者のデーターを収集し、これまで収集しているデーターと比較検討を行うことから始める予定である。特に、韓国語母語話者と日本語母語話者の調査データーを詳細に比較することは重要であり、韓国語と日本語の間に見られる僅かな差異が、束縛原理の習得にどのように影響しているのかを正確に見極めていきたい。 日・英・韓の差異を明確に示すようにデーターを整理した時点で、個々の差異が文法のどのような部分に起因するものであるのかを検討し、「構造依存性」と「文脈依存性」の問題を改めて考察する予定である。単純に「束縛原理」の問題として処理可能な部分もあれば、UGから帰納することが困難な事象もあると思われるので、この分析には時間がかかることが予想される。 こうした入念な考察をもとに、2017年の秋から2018年の春にかけて、学会発表・ホームページの作成・データー報告を中心とするブックレットの作成を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度予定していた日本国内でのアンケート調査を実施することができなかったことに加えて、英語圏での調査予定がアメリカ合衆国からカナダに変更となったことで、渡航費・滞在費の支出がかなり減少した。また、2016年度のフィールドワークでは人件費・謝礼が発生しなかったことによっても残額が発生した。さらに、大韓民国におけるアンケート調査に対する謝礼はその他として処理し、カルガリー大学でのアンケート調査に対する謝礼、収集したデーターの統計処理を行ってもらった人件費が三月末時点では未処理となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
カルガリー大学でのアンケート調査に対する謝礼、日本国内での調査、アメリカ合衆国での追加調査、統計処理を行うことで、残額は2017年度中に全て使用される予定である。
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