研究課題/領域番号 |
15K02777
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研究機関 | 広島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
桑田 明広 広島商船高等専門学校, 一般教科, 教授 (50153432)
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研究分担者 |
上杉 鉛一 広島商船高等専門学校, 一般教科, 教授 (40249842)
前田 弘隆 広島商船高等専門学校, 一般教科, 教授 (60190310)
松島 勇雄 広島商船高等専門学校, 電子制御工学科, 教授 (80157304)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 外国人労働者 / 言語接触 / 地域コミュニティ |
研究実績の概要 |
瀬戸内に浮かぶ大崎上島に在住し働いている外国人と雇用者である地元民とのコミュニケーションの実態を、彼らの母語を用いて聴取し、語学教育に有益な方略を見い出し、併せて、調査の中で得た彼らの欲する地域情報を、ウェブサイトにそれぞれの母語を用いて公開することを研究の目的とし、また副次的な成果として、この情報発信によって同国人コミュニティ創生や島民との交流にも寄与することを企図している。 大崎上島町役場の把握している島内で働く外国人の数は約三十名余りと意外に少なかった。第一年度は中国人、第二年度はベトナムとフィリピン人、と概ね割り振った。中国人労働者への聴取は、本校の教員や非常勤講師により順調に実施することができた。一人ずつに対して原語での自然な対話の流れを心がけ、また録音することによって正確を期した。とても好意的に応じて頂いたのも印象的だった。しかし、食材の多くは業者に注文し地元スーパーに殆ど行くこともなく、休日も街に出ることもない閉鎖的な生活が見えてきた。唯一、祭りで神輿を担いだことを楽しそうに語っていたのが、今後へつながる曙光ではある。 地元へ浸潤する方策は、先進地域を参考にすべく、広島県福山市役所の担当部署に情報収集を行なった。しかし、外国人が多く居住し同国出身者によるコミュニティが成立している地域環境は、二年間だけ出稼ぎに来る人々の感覚とは隔たりが大き過ぎる。短期の出稼ぎ外国人労働者にとって異文化との接触の必要性と内実を検討しなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
在住者数が最も多い中国語話者への聴取は順調に終了し、本校の紀要にその成果を載せた。一方で難題も明らかになってきた。労働者側は金を稼ぐことだけに興味が集中し閉鎖的環境を受け容れており、自分たちに必要な情報はスマホ等で容易に入手し本国ともつながっている。現時点では、地域の情報やつながりを求めていないように推察される。また、雇用者である日本人が島の中に住む同国人同士が親しくなることを避けたいと明言した。 語学修得に資するデータは少なかった。労働者たちも雇用者側も日本語習得とその必要性には関心が乏しかったのは意外であった。 また、情報発信に際して独自にサーバーを設置することに本校のメディアセンターが難色を示したので、やむを得ず学内ネットワークの中に本プロジェクトのウェブサイトを開設することで折り合いをつけた。初年度は指示された位置に枠組みを構築し、情報を流し込む機器を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度は主としてベトナムとフィリピンから大崎上島に来ている労働者を聴取する。ベトナム語の話者は高専への留学生に依頼する予定である。 発信に向けては、地元の情報を運用するウェブサイトに幾つかの情報を日本語と中国語で盛り込み、第一年度に聴取した中国人の皆さんに中国人の皆さんにモニタリングを依頼し、内容を調整する。 また、広島商船高専の文化祭に中国人労働者を招き学生たちとの接触を促すことで、地元と交流する方策を模索する契機とする。 しかし、初年度の聴取で明らかになった問題点を総括し外国人労働者のコミュニティ形成あるいは異文化接触について当プロジェクトをソフトランディングさせ将来に多少なりとも有為な成果を残し得る方向に修正することこそ最大の課題として生起している。
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次年度使用額が生じた理由 |
独自にサーバーを設置することに本校のメディアセンターが難色を示し、やむを得ず、学内ネットワークの中に本プロジェクトのウェブサイトを開設し外国人労働者への情報提供をすることに変更したことによって、情報発信に関わる編成を当初の予定より大幅に減額した。さらに、外国人労働者への聴取は、広島商船高等専門学校の非常勤講師にお願いしたが、そのため謝金をかなり低く支払うこととなった。常勤の教員には無給で聴取を手伝って頂いた結果、人件費が予想額より大幅に抑えられた。 また、実態調査に訪ねる予定にしていた自治体が先進的に過ぎて、本研究の対象地域の状況と大きく乖離している可能性がある恐れが生じ、一切の視察を見合わせた。そのため旅費については、聴取者の来訪にのみ用いたことで、残額が多くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
第2年度に予定しているベトナムやフィリピンから来訪した労働者への聴取は、それぞれの言語を話す協力者が近隣にはいないので支弁する旅費も謝金もかさむ予想である。一方で、第1年度に行なった中国人労働者への二次の聴取を実施し、本研究の中核的な対象としての中国人労働者をより精査する。それに並行して中国人向けに情報発信を試行し調整を繰り返す。その為のハード面はほぼ整えられているが、ウェブサイトの補強と運用については専門的な作業が必要となるであろう。 何より、本研究の最終的なまとめ方やその後への発展について、助言を求めたり、関係者で議論したりする機会を十分に持つ必要が生起している。
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