研究課題/領域番号 |
15K02794
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
渡部 良典 上智大学, 言語科学研究科, 教授 (20167183)
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研究分担者 |
加納 幹雄 岐阜聖徳学園大学, 教育学部, 教授 (70353381)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 英語教員の英語運用能力 / 英語教員の指導技能 / 授業力の診断 / 授業観察システム / 学習効果 |
研究実績の概要 |
2017年度は主に以下3点について研究・考察を行い成果を挙げた。 第一に、授業観察基準を設計し、中学校の授業(実地観察)、高等学校の授業(DVD録画授業)、および台湾における高等学校の授業、それぞれを観察する際に試行的に使用した。第二に、授業の効果をより立体的に理解するための方法として、日記(diary)および習得項目調査票(Up-take recall chart)の使用方法および効果を考察した。第三に、授業観察において特に課題となりうるテーマ、すなわち学習者へのフィードバック、発問、動機付けの方略、授業内評価、これらについて過去の研究成果をまとめた。 上記中、第一点の授業観察基準作成にあたっては様々な研究成果を参考にしたが、特にCambridge English assessmentのTKT RACTICALは実践的であり、理論的にも妥当であることから特に多くを負っている。観察対象項目は、大きく分けて「授業が速やかに効率よく進められるよう学習環境を整える」、「言語の知識および運用を指導する」、「課題に応じてペア・ワーク、個別指導、一斉授業、グループ・ワーク等さまざまな授業形態を使う」、「指導場面、学習目的、生徒のレベルに応じた英語を使いながら授業を進める」、「学習者の習得状況を客観的に把握し、進度に応じた指導をする」これら5点、および各範疇の下位項目を基準とした。さらに、当初の計画には含めていなかったが、教育実習生の模擬授業、および小学校における英語指導も考察の対象とし、観察基準を適用しながら授業改善につなげた。第二、第三点目については、観察記録に基づいた授業改善への示唆ができるよう小冊子としてまとめた。 最後に、上記すべてをまとめた内容を著書として出版するための準備として企画書の作成を行った。これについては次年度以降も継続して行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の点において、当初予定した目標を到達できていると判断した。第一に、授業観察基準を設計するにのみならず実際の授業観察を行い、使用方法について今後考慮すべき点が具体的に理解できたことである。第二に、授業観察の基準を設定するのみならず、授業担当教員授業観察に基づいて建設的なフィードバックを行うために必要となる、過去の研究に基づいた改善案を得るための文献調査を進めることができたことである。これは初年度に達成することを計画していたのであるが、今年度遅れての達成となった。第三に、観察対象を、国内の中学校、高等学校の授業のみならず、我が国と似た状況にある台湾の授業をも観察の対象とすることができたことである。さらに、当初は予定していなかった教育実習生の模擬授業にまで観察対象を広げることができたことは大きな成果であったと判断できる。さらに、教員の指導効果を検証するための手立てとして、形式的なテストではなく、日記および習得項目調査票という、学習者の自由度を高め自らの学んだ内容を詳細に記載することのできる方法について実行可能性を検証てきたことは当初の計画を超えた成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題は以下のとおりである。第一に、観察基準はほぼ整備でき、さらに試行実験も行うことができたが、現場の教員が使えるかどうかについては検証を終えていない。小中学校および教育実習生に使ってもらい、改善のための問題点をまとめ、使用度を高める必要がある。第二に、観察を行っている際、基準以外にも特記すべき事柄が認められるのが普通である。今回設計した観察基準はすでに観察すべき事柄を事前に決めているため、自由記述の部分が単に空白のままになっている。積極的な記載を促すための表示方法を整える必要がある。第三に、本申請研究では教員の指導、対象言語の習得、教員へのフィードバック、これら3項目をもって観察システムとよんでいるが、現在までのところそれぞれが独立した事柄となっており、関連性が薄い。今後は有機的な関連性を保つための実証研究が必要となる。例えば、学習効果が低いのは教員の発問の仕方に問題があることがわかった場合それを改善するための手立てが得られる、という準備はできている。しかしながら、予測のできない関連性が発見される可能性も高い。予測しなかった指導方法と学習効果の関係が見つかった場合には、それを今後の課題とすべきではあるが、そのままにすることはいかにも建設的ではない。予測不可能な関連性への対処方法を整える必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ収集分析に謝金を予定していたが、データ数が多くないことまた詳細な分析にまでは研究が進んでいないこと、これらの理由から謝金に余剰額が生じた。同じ理由により国内外の学会での研究発表をするまでの成果が上げられず交通費等に余剰額が生じた。申請者2名がそれぞれ独立してデータの収集にあたったため、協議に予定していた交通費および準備費等に余剰額が生じた。
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