研究課題/領域番号 |
15K02813
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伴瀬 明美 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (90292797)
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研究分担者 |
豊島 悠果 神田外語大学, 外国語学部, 准教授 (10597727)
稲田 奈津子 東京大学, 史料編纂所, 助教 (60376639)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 皇后 / 后位 / 王妃 / 皇太后 / 礼制 / 後宮 / 王権 / 東アジア |
研究実績の概要 |
本研究は、共通の研究資源を構築するためのA文献目録・解説の作成、B儀礼書の訳注の作成、これらをふまえたC協業的方法による比較史研究、を研究の大きな柱とし、D韓国・中国での学術調査・学術交流を行いつつ、E研究成果の公開にむけて活動を進めている。 A文献目録・解説の作成:日本史・中国史・朝鮮史それぞれについての后位・后妃・後宮などに関する文献目録の作成について、本報告書提出時点で、日本史文献は657件、中国史文献は296件、朝鮮史文献は134件を収集し、一文献ごとにキーワードを切り出し、外国語文献についてはタイトル・副題・キーワードの日本語訳を付して目録に登録した。 B儀礼書の訳注の作成:儀礼における直接の継受関係が明確であり、それぞれの国の王室・后妃関連儀礼の基礎となった儀礼書である中国唐代の『大唐開元礼』と朝鮮王朝の『国朝五礼儀』の立后(立妃)儀礼にあたる『大唐開元礼』巻93「嘉礼/納后」と『国朝五礼儀』巻3「嘉礼/納妃儀」を対象に訳注を開始した。 C協業的方法による比較史研究:定例の公開研究会「東アジア后位比較史研究会」を主な場として進めている。日本史・中国史・朝鮮史分野の研究者が参加し、東アジア諸王朝における后位・后妃・礼制等に関わる様々な論点からの研究報告をめぐって討論を行い、訳注作成に関する討論もこの公開研究会で行っている。2015年以来14回を数え、参加者数はのべ100人を超えている。 D韓国・中国での学術調査・学術交流:2016年8月に韓国において、王陵調査、国立弥勒寺址遺物展示館・ソウル大学奎章閣韓国学研究院で史料調査を行い、現地研究者と韓国古代女性史研究の現状等について研究交流を行った。また同年10月にソウルで開催された韓国歴史学会大会に参加して朝鮮半島古代諸王室に関係する最新の研究動向に触れ、さらに新羅時代の王宮址周辺・寺院の現地調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A文献目録・解説の作成:日本史文献についてはおおよその目途がつき、目録解説および主要文献の要約作成の準備をしている。中国史・朝鮮史文献については、日本語論文の収集はほぼ終え、中国語・韓国語による文献の収集に注力している。また中国史の主要中国語文献の日本語概要を作成したのにつづき、重要な朝鮮史文献として、王室婚礼儀礼に関する韓国語論文の日本語訳を行い、今後の重要論文要約和訳・解説等の作成に備えている。 B儀礼書の訳注の作成:『大唐開元礼』巻93「嘉礼/納后」と『国朝五礼儀』巻3「嘉礼/納妃儀」を対象に、現時点で4回の訳注研究会を行っているが、数文字の解読に長時間の議論を要することが多々あり、全体の三分の一程度の訳注を粗々終えたところである。なお研究開始当初から特殊性を指摘されてきた日本の立后儀礼については、伴瀬が日本の立后儀式に関する儀式書や貴族の日記における記録を検討し、確立期における立后儀式次第の詳細と特徴を明らかにする論文を発表した。 C協業的方法による比較史研究:公開研究会「東アジア后位比較史研究会」は、報告者・参加者の専門(地域・時代)、所属機関、年齢ともに多様であり、それが活発な討論につながっている。これまで公開研究会を重ねてきたなかで、日本の后・母后のあり方は北魏等北方遊牧民族の国家の在り方に近いのではないかと指摘されたことをふまえ、次年度はじめに開催する国際研究集会「東アジアの皇后儀礼の比較研究」では北魏の皇后がテーマとなる予定である。 D韓国・中国での学術調査・学術交流:本年度は韓国について重点的に行った。順調に進捗している。 E研究成果の公開:A~Dを通じた蓄積をふまえ、本研究の目的である東アジア諸王室における「后位」比較史研究について参画研究者が成果をまとめている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
A文献目録・解説の作成:2017年8月を目途として文献収集を終え、公開に向けたデータの整理を行う。また、参画研究者が分担して分野ごとに解説を執筆し、ついで中国語・韓国語・英語への翻訳を行う。あわせて研究史上の重要論文を対象に要約を作成する。 B儀礼書・儀式書の解読、訳注の作成:引き続き『大唐開元礼』巻93「嘉礼 納后 上」と『国朝五礼儀』巻3「嘉礼 納妃儀」の訳注を進める。 C協業的方法による比較史研究:2017年4月2日に国際研究集会「東アジアの皇后儀礼の比較研究」を開催し、中央研究院歴史語言研究所(台湾)の鄭雅如氏が北魏の皇后・皇太后に関する研究報告を行い、伴瀬・稲田・豊島ら科研メンバーが各専門分野からコメントする予定である。また「東アジア后位比較史研究会」を継続する。さらに、2017年7月に中央研究院近代史研究所(台湾)で開催される国際学術研討会「世界史中的中華婦女」において科研メンバー全員が参加することが決定しているため、科研としての研究成果の発表の場とすべく、各自論文執筆とパネル報告の準備を行う。また年度末刊行予定の科研報告書にむけて各自成果をまとめる。 D中国・韓国等での調査・学術交流:中国における「皇宮」の調査を予定しているが、研究成果のまとめと公開を優先するため、場所・日程等は未定である。 E研究の公開:文献目録、その解説(中国語・韓国語・英語訳)、重要論文の要約、外国語の重要論文の翻訳、『大唐開元礼』巻93「嘉礼 納后 上」・『国朝五礼儀』巻3「嘉礼 納妃儀」訳注、研究会記録、在外研究者との学術交流の記録、参画研究者の研究成果としての論文等は科研報告書等印刷物として公開する。また、文献目録(検索用キーワード付き)およびその解説(他言語版)、研究会記録等は、ウェブサイト上で公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者の一人が乳児の育児中であったため、韓国への出張(二回のうち一回)を含め、調査に同行できないことがあったこと、物品費で購入予定だった儀礼関係の書籍について適当な書籍の刊行がなく、購入しなかったこと、その他として計上していた印刷費について、本年度は科研グループとして印刷費を支払うべき刊行物がなかったことなどが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、研究計画にのっとった支出を心がけたうえで、研究成果公開にむけて、たとえば文献目録解説の英語・中国語・韓国語訳や、中国語・韓国語主要論文要旨の日本語訳を作成するための多額の翻訳謝金、および文献目録のweb公開のための費用等が発生することが見込まれるため、研究成果公開に関わる経費に重点的に支出する予定である。
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