研究課題/領域番号 |
15K02824
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
蓑島 栄紀 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (70337103)
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研究分担者 |
三上 喜孝 国立歴史民俗博物館, 研究部, 准教授 (10331290)
田中 史生 関東学院大学, 経済学部, 教授 (50308318)
笹生 衛 國學院大學, 神道文化学部, 教授 (60570471)
北原 次郎太 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (70583904)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アイヌ文化 / 擦文文化 / 境界領域 / 周縁 / 交易 / 宗教 / 祭祀 / 儀礼 |
研究実績の概要 |
2016年7月、北海道江別市の北海道埋蔵文化財センターにおいて資料調査を実施した。特に、千歳市美々8遺跡、千歳市ユカンボシC15遺跡から出土した、続縄文期~擦文期~中近世にかけての考古資料のうち、木製品を中心に多くの点数を調査した。発掘担当者からの助言も得つつ、詳細な調査検討を行うことができた。とりわけ、続縄文文化期~擦文文化期に遡る可能性のある祭祀具(イクパスイとされる資料などを含む)を数十点実見し、検討できたことは大きな成果である。これらの資料の具体的な用途・機能などを、後世の民具資料や民俗事例との比較検討などから歴史的・具体的に把握するための議論を深めることができた。 また、道埋文センターに近い江別市の北海道式古墳(後藤遺跡)を現地踏査した。 さらに、平取町、恵庭市において、多数のアイヌ民具および続縄文~擦文期~中近世の考古資料、遺跡を調査した。擦文後期の祭祀遺跡の可能性のある平取町カンカン2遺跡と、付近のチャシとの位置関係を現地踏査により確認した。これにより、前近代のアイヌ(あるいはその祖先集団)の祭祀行為を、周辺環境および景観のなかで具体的にイメージすることができた。 2017年2月、長崎県での現地調査を実施した。大村市竹松遺跡で、列島内外の貿易陶磁器や、宗教・儀礼に関わる製品などを実見調査し、担当者からのコメントを得つつ議論を深めることができた。また、佐世保市門前遺跡に関して、同様の資料群を実見調査した。さらに、古代・中世において、南西諸島から列島北方地域まで流通した滑石製石鍋の主産地である西彼杵半島の西海市ホゲット遺跡を現地踏査し、多くの知見を得た。これらにより、列島周縁地域の国際交流と宗教・儀礼の関係について多大な成果が得られた。それは、列島北方地域およびアイヌの交易と宗教・儀礼のかかわりについても、比較検討の材料として、重要な参考事例となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北海道の古代~中世の木製品の調査・検討は、本プロジェクトの「本丸」ともいうべき中心的領域であり、計画当初から詳細に検討することが必須であった。これについて、過去の2年間において、北海道および本州北部の古代祭祀具、あるいは祭祀に関連する可能性のある木製品の大半を実見・検討することができたことは大きな成果である。 北海道でも、古いものでは続縄文後半期に遡る層位から出土した木製品のなかに、木製祭祀具(民俗例の祖形)としての可能性が指摘されている資料の存在が確認でき、そうした資料について、本州の祭祀具の研究者や、アイヌの民具や伝統文化の研究者などを交えて、実物を手に取りながらの活発な意見交換を行うことができた。それにより、本州北部における類例や、民俗事例との比較検討についても、具体的な論点や課題が浮き彫りとなってきた(それらの具体的なポイントについては整理中である)。 さらに、こうした祭祀の場、祭祀具の出土地点が、いずれも交流・流通の要衝であることをどのように考えるべきか、問題が明瞭になってきた。こうした点については、「西」「南」の九州や南西諸島における古代・中世のアジア的交流の状況からも、比較検討すべき多くの示唆を得ることが可能となっている。このように、祭祀・儀礼と交易・交流のかかわりについて、普遍性・共通性の視点と、北方地域・アイヌならではの独自性の視点との両面から検討するための素材が整いつつある。 最終年度には、当初の予定どおり、これらの調査のデータとその検討結果を整理・分析し、「アイヌ文化の形成と基層」における祭祀・儀礼と交流・交易の実態・意義について、いくつかの仮説的な見通しの提示をおこなうことができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の調査研究によって、1)古代・中世北海道の木製祭祀具(民俗事例の祖形である可能性のあるものなど)の調査・検討。2)古代・中世の本州北部、とくに青森における同様の木製祭祀具の調査・検討。3)列島西部・南部(九州など)における古代・中世の祭祀具の調査・検討。の3つについて、多くの新しい知見を得られている。先述のように、こうした古代・中世における祭祀の場、祭祀具の出土地点が、同時に交流・流通の要衝である可能性も明らかとなってきている。 最終年度の前半には、もう1~2回のフィールドワークによる資料調査を実施したい。そして得られたデータと論点を抽出し、3年間の研究の小括として、「アイヌの形成と基層」における祭祀・儀礼と交易・交流の関係性を具体的に解きほぐすため、現時点での仮説的な見通しや展望をいくつか示すこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の最大の調査旅行となった7月の北海道調査について、参加者(研究協力者含む)の多くが近隣の地域に居住していたため、交通費があまり高額にならなかった。また、2017年2月におこなった長崎調査について、とくに研究協力者については、当該科研費による参加者が少なかった(研究協力者については、代表者が別に獲得している独自予算を使用しての参加者が多かった)。 これらによって、支出の大きなウエイトを占めるフィールドワークの旅費が予定よりも安価に収まり、想定外の余剰金が生じたことが、次年度使用額の生じた最大の理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度にも1回のフィールド調査を予定しており、また総括研究会の実施や、そのための資料集印刷など、最終年度に必要な支出費目は多い。次年度使用額が生じたことで、むしろ最終年度に余裕が生じ、研究がやりやすくなった面もある。以上のように、最終年度の計画を実施するためのめどはたっている。
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