本研究では近世・近代移行期の芸能文化のありようを、①社会環境の変化、②芸能作品の内容、の二側面から描き出し、「伝統」芸能の展開過程を見通すことを目的とした。①については具体的に三つの点に着目した。一つめは地方における芸能者の階層性、二つめは出稼ぎする歌舞伎役者、三つめは遊里における男芸者である。明治初期の行政機構の改編により制度的な側面は改変されたものの、芸能者の階層性や出稼ぎの実態には継続性がみられ、地方や都市社会の深部まで芸能が伝播・普及して「伝統」化の基盤をつくったことが判明した。②については浄瑠璃文化が社会現象まで取り込み、出版物等を通して同時代の民衆意識に浸透していたことが判明した。
|