研究課題/領域番号 |
15K02830
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古尾谷 知浩 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70280609)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 建築史 / 手工業史 / 日本史 / 古代史 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、論文(1)古尾谷知浩「都城と手工業-「官営工房」論の再検討」(舘野和己編『日本古代のみやこを探る』勉誠出版、2015年6月)、(2)古尾谷知浩「奈良時代の木工における都鄙間技術交流」(『名古屋大学文学部研究論集』185、2016年3月)を公表し、学会報告(3)日本史研究会例会報告「古代の木器生産」(2015年12月)を行った。(1)では、日本古代の手工業生産、建築生産についての研究史を整理し、その中で重要な位置を占めていた「官営工房」論について再検討を行った。その結果、手工業を検討する際に必要ないくつかの指標、すなわち、生産・造営の意志の発現から現業部門に至るまでの伝達、道具・施設、原材料・燃料などの調達、労働力の確保、組織化、労働者への給付、技術の伝達、原材料・製品などの輸送、製品の所有・分配(供給)先、これら全体を組織化する制度・機構などについて、官が管理する場面は限定的で、ほぼ、天皇家産機構に限られ、その外側には広範に民間の生産が展開していたことを明らかにした。(2)では、古代における中央から地方への建築生産技術の移転の問題を論じた。従来の研究史では、国家による積極的な技術移転が重視されたことがあったが、8世紀においては、中央の需要による造営事業の場合を除いて、国分寺造営においてさえ、国家が一律、政策的に技術支援を行うことはなく、国司の個別的な人脈により技術者の派遣が要請され、しかもそれが実現した場合もそうでない場合もあったことを明らかにした。また(3)では、建築生産現場における木製品の調達について検討し、官がこれを直接生産することは限定的であったことを明らかにした。(1)(2)(3)を通じて、従来の研究で主流であった、手工業生産、建築生産について国家による管理を重視する見解に対し、それは限定的であって、民間の生産活動が基盤となっていたことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、平成27年度には次のA・Bの作業を行うこととしていた。 A「分析対象史料としては、①正倉院文書に重点を置く。その中でも、技術労働者の管理の問題に着目する。その理由は、管理する側の官司・家産機構、技術の移転・継承、技術を用いて生産された製品などの全体を、技術史的観点から見通すことができる結節点になると考えるからである。このことを通して、前記の課題Bに接近することができる。具体的には、石山寺造営関係史料の中に、建築技術労働力の派遣に関するものがあり、これを分析することにより技術・技術者と寺院や国家との関係を検討することができる。」 B「必要物資ごとの分析としては、建造物の主要部分を構成する木材の調達・使用について重点的に検討する。これは、上記の建築技術労働力のあり方と密接に関わるものであり、あわせて理解すべきものである。」 Aについての成果として、上記の論文(2)を公刊し、Bについての成果として、上記の学会報告(3)を行った。また、これらを研究史の中に位置づけ、総合する成果が上記の論文(1)にあたる。これらの成果物を公表することができたことから、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
分析史料として、正倉院文書について引き続き検討するとともに、寺院資財帳、法制史料等についても検討範囲を広げる。寺院の資財は天皇・貴族からの施入に由来し、宮殿の資財と共通するものも多く、建築・手工業生産と家産機構との関係を考える上で有効である。また、分析対象として、寺院建築について引き続き検討するとともに、官衙建築についても検討範囲を広げる。官衙建築の検討にあたっては、法制史料等の分析が必要となる。こうした作業を通じて、建造物の使用段階まで視野に入れて、造営のあり方について明らかにすることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
出土文字資料の調査に必要な現有の機器の一部に不具合が生じ、計画していた調査を次年度に行うこととしたため。 および、計画していた調査が、日程の都合により短縮されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
出土文字資料の調査に必要の機器の一部を更新するために使用する計画である。
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