研究課題/領域番号 |
15K02830
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古尾谷 知浩 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (70280609)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 建築史 / 手工業史 / 日本史 / 古代史 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、論文「国の「庁」とクラ」(『名古屋大学文学部研究論集』188号、pp.73-88、平成29年3月)を公表した。この論文では、地方行政機構である国の中枢施設としての「庁」およびその周辺の施設の構造と機能について注目し、以下の点を明らかにした。(1)先行研究が指摘するとおり、国の「庁」の機能には、儀礼・饗宴・政務がある。(2)朝賀などの儀礼における国の「庁」およびその前庭の機能は、宮の大極殿および朝庭に対応し、饗宴における国の脇殿の機能は、宮の4朝堂に対応しており、宮の12朝堂には対応していない。(3)国の「庁」において行われる政務の構成要素は「判」と「捺印」である。(4)先行研究が指摘するとおり、宮の12朝堂の「庁」で行われる政務(朝政)の構成要素は、口頭による「判」であり、「曹司」の「庁」で行われる政務(太政官であれば「官政」および「外記政」)の構成要素は、口頭による「判」と文書への捺印(太政官であれば「庁申文」と「外印請印」)である。(5)従って国の「庁」の機能は宮の「曹司」の「庁」に対応し、捺印を行わない宮の12朝堂とは対応しない。(6)国の「庁」では文書への捺印を行うため、近くには印・公文を納めるクラが必要である。(7)印・文書のクラのカギの管理は、長官固有の権限であって、平安時代後半においても象徴的に維持されていた。 以上のように、地方官衙の施設のあり方とその機能について、中央政府と対比しながら検討することで独創的な成果をあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、平成28年度には次のA・Bの作業を行うこととしていた。 A分析対象史料としては、平成27年度に引き続き、正倉院文書について継続して検討するとともに、②寺院資財帳について対象を拡大する。寺院の資財は天皇・貴族からの施入に由来するものも多く、建築・手工業生産と家産機構との関係を考える上で有効である。 B必要物資ごとの分析としては、正倉院文書を踏まえて、寺院建造物の造営について引き続き検討するとともに、木工の範囲を広げて木製品を含む調度品についても検討する。 平成28年度の実績としては、以上の作業を行うことと並行して、中央政府、地方官衙の建造物に関する検討を進め、その成果として前記の論文を公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、分析対象史料として、延喜式等にも対象を広げ、法制的側面から国家と建築・手工業生産の関係の問題を検討する。また、正倉院文書と寺院資財帳の分析を踏まえて、仏像・調度品等の生産について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
熊本地震の影響により、九州方面での調査ができなかったため。また、当初計画していた調査機器の更新を次年度に行うこととしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
九州地方の調査を推進するとともに、調査機器の更新を行うために使用する計画である。
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