2022年度は、本研究の目的の一部にあたる天皇家産機構に関する研究を深化させ、平安時代の家産機構の具体相について検討した。その成果は、「宇多院司の構成とその変遷」(『日本歴史』888号、2022年5月)にて公表した。 研究期間全体としては、主として奈良時代の建築生産およびその前提となる建築部材等の手工業生産について、天皇家産制との関係を軸に研究を深化させた。具体的には、「都城と手工業」(舘野和己編『日本古代のみやこを探る』勉誠出版、2015年)、「文献史料からみた地方官衙と手工業」(浜松市博物館等編『静岡県と周辺地域の官衙出土文字資料と手工業生産』2018年)にて、都城の宮殿・官衙・寺院および地方官衙の造営の前提となる手工業生産のあり方について、天皇家産機構の関わりの中で考察した。また、手工業史研究の各論として、「古代の木器生産」(『日本史研究』656号、2017年)、「八世紀の布帛生産と律令国家」(佐藤信編『律令制と古代国家』吉川弘文館、2018年)を公表し、木製品、繊維製品の生産と、天皇家産機構の関係について明らかにした。 以上のような手工業史研究の蓄積を踏まえ、手工業製品の集大成にあたる建築生産について、「奈良時代の木工にみる都鄙間技術交流」(『名古屋大学文学部研究論集』185号、2016年)、「国の「庁」とクラ」(『同』188号、2017年)、「文献からみた国・郡・寺院の「庁」における政務とクラ」(奈良文化財研究所編『地方官衙政庁域の変遷と特質』、クバプロ、2018年)などを公表し、技術移転の問題や、施設の使用のあり方の問題について明らかにした。 以上の成果を総括するものとして、著書『日本古代の手工業生産と建築生産』塙書房、2020年)を公刊した。
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