研究課題/領域番号 |
15K02833
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
今津 勝紀 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (20269971)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地域史 / 空間分析 / シミュレーション / 吉備 |
研究実績の概要 |
本研究では計算機上に空間を再現し、その空間を人間がどのように活用していたか、また認識していたか、その空間の意味を考える空間解析を行う。対象とする吉備(美作・備前・備中・備後)について、古地形を計算機上に復元し、その上に里(五十戸・郷)の分布を重ねることで、国・郡・里の仮想の行政空間を再現する。その空間領域に、氏族の分布・寺院・官衙、官衙様遺構、集落や生産遺跡の分布を重ねることで、それぞれの要素に即した空間の意味を考える。この作業を通じて、古代の地域社会の基本構造を立体的に把握する。本年度は、1.「郷名の集成と現地比定」として、備前・美作地域について『和名類聚抄』・木簡で確認できる郷の分布を現地に赴いて確認した。おおよその比定地をもとに、その中心となる位置の座標を設定し、空間分析の手法により可視化をはかった。また、2.「氏族分布の確認」は、今津勝紀「吉備をめぐる予備的考察」(鈴木靖民編『日本古代の地域社会と周縁』吉川弘文館、2012.3)で作成した氏族分布表をもとに、その後の史料での追加の有無を確認し、当該地域に復元できる氏族を網羅した。3.「地図の準備」ではコンピュータ上に仮想の旧地形を構成し、空間分析の基板を作成するのだが、ベースマップはDEM分解能30mのASTER G-DEM のデータより作成した地形図を使うとともに、新たなデータを購入し試している。4.「官衙遺跡・官衙関連遺跡、集落・生産遺跡、古代寺院の分布を確認」では美作地域を中心に現地をめぐり座標を取得した。5.「国際歴史学会への参加」では浙江大学で研究成果を発表した。この問題に関する「日本古代地域史研究の新視点―空間分析と生態学的アプローチ―」(『歴史評論』786、2015.10)を発表し、備前・美作を事例とした分析として「古代における国郡領域編成の一考察―備前・美作の事例―」を提出したが、現在印刷中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人間と環境との関係を思弁的に措定するだけでなく、検証可能な形で把握することが重要であること、そのための方法としてシミュレーションが有効であり、地域史研究の新たな方法として空間分析の具体的な手法を「日本古代地域史研究の新視点―空間分析と生態学的アプローチ―」(『歴史評論』786、2015.10)にて示した。地域分析の対象となる備前・美作については国郡領域編成の具体的あり方を本研究の手法により解析し、令制当初の赤坂郡は陸路では山陽道を水路では吉井川を骨格とし、後の美作国境までを領域としていたこと、邑久郡は播磨国境までの海岸部分全体を領域としていたが、それは海路によるものであり、これら領域編成の本質が道にあったことを示し、山陽道の交通の維持、美作国成立にともなう輸送ルートの再編にともない、備前東部で目まぐるしく郡域が変遷したことを具体的に跡づけた。
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今後の研究の推進方策 |
1.前年の作業を引き続き行い、本年度は備前と美作について現地調査を行う。 2.里(五十戸・郷)の代替座標をもとに、領域のボロノイ分割を行い、仮想の小領域を作成し、郷域を可視化する。またこれらの分布指向性と分布中心点を計算する。 3.前年度に引き続き、官衙遺跡・官衙関連遺跡・古代寺院を集成・確認し、座標を求める。コンピュータ上に復原した地形を利用し、古道の推定を行う。仮想地形上の二点間を最短で結ぶルートを計算することで、仮想の古道を復原することが可能であり、寺院間・官衙間などのルートを計算する。 4.地形の傾斜方向や傾斜角により水系を求めるとともに、同様に水田化の可能な土地と山地として用益される土地を計算により求める。さらに、集落・生産遺跡の分布を確認し、土地条件図などをもとにして古環境を推定する。
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