研究実績の概要 |
本研究は、1990年代初頭に財政構造転換を指標として提起された10世紀後半画期論に対して、9世紀末~10世紀初頭の寛平・延喜の国制改革によって王朝国家体制に転換したとする王朝国家論を擁護する立場に立つ研究である。10世紀後半画期論は、中央レベルの財政構造(転換)論に空白があった王朝国家論の虚を突くように提起された、10世紀後半に律令制的財政構造が解体してあらたな財政構造に転換したとする主張を土台に構築された学説であり、今日、通説化している。逆に、王朝国家論は過去の学説として葬り去られたかのような議論がなされている。 このような動向に対し、1995年全国古代史サマーセミナー全体会での報告「 平安時代史研究の新潮流をめぐって―10世紀後半画期説批判―」以来、王朝国家論の立場に立つ財政構造論・財政構造転換論を模索し、2008年全国古代史サマーセミナー全体会での報告「摂関期の斎院禊祭料と王朝国家の財政構造」(『九州史学』156号 2010年)において、摂関期の賀茂祭における斎院禊祭料という具体的課題を通して、王朝国家の財政構造の特質を明らかにした。 本研究は、上記の斎院禊祭料研究を発展させたものであり、新出応和3年宣旨にみえる禊祭料調達の歴史的変遷の4つの段階を指針として、律令国家財政構造から王朝国家財政構造への転換と転換後の財政政策の特質について具体的に解明したことが大きな成果であり,紙媒体の研究成果報告書に「王朝国家の財政構造と斎院禊祭料の諸段階」として公表した。禊祭料調達を中心とする斎院禊祭の運営組織である禊祭行事について、また賀茂祭における内裏側の祭使・女使関係用途についての研究もほぼまとまっており、後日、公表したい。 研究協力者の力を借りて古記録から平安時代の賀茂祭関係史料の抽出・整理を行い、上記紙媒体報告書に「賀茂祭関係古記録史料集(稿)」と題して公表した。
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