研究課題/領域番号 |
15K02836
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
丸山 裕美子 愛知県立大学, 日本文化学部, 教授 (00315863)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本古代史 / 医学史 / 本草学 / 敦煌写本 / 医疾令 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本古代社会における病と医療・医学の実態を解明することを目的とする。人類社会に共通する生と死、病と医療の諸相を、日本古代社会をモデルケースとして、歴史学的に明らかにすることを目指している。本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1.昨年度に引き続き、平安中・後期の古記録類から、当該期の病と本草・医療に関する史料の収集を行った。その成果を踏まえ、『藤原道長事典』(思文閣出版)に「藤原道長の病と医療」と題して平安時代の病と医療についての概説を書き、『御堂関白記』にみえる病・医療関係項目の解説を書いた。 2.本年度は新たに平安後期(院政期)の絵巻物「病草紙」について、考察・検討を行った。武田科学振興財団『杏雨書屋蔵 病草紙 模本集成』及び加須屋誠・山本聡美編『病草紙』(中央公論美術出版)が刊行され、研究環境が整ったことによる。研究成果は、2018年4月に武田科学振興財団・杏雨書屋で開催された研究講演会において報告する。 3.訳注日本史料『延喜式』下(集英社)が刊行され、担当した典薬寮式の注釈をようやく公表することができた。平安時代の医学・医療制度に関する基礎的史料の全注釈として初めてのものであり、今後の当該分野の研究に裨益すると自負している。 4.中国社会科学院歴史研究所の研究者によって、日本・龍谷大学所蔵の大谷文書のなかに、唐医疾令の断簡があることが発見された。これを受けて、龍谷大学で当該史料の原本調査を行い、あらためて日本と唐の医疾令について条文を復原し、排列を考え、比較研究を行い、その成果を論文「唐医疾令断簡(大谷3317)の発見と日本医疾令の復原」にまとめた(2018年刊行予定)。その他、朝日新聞土曜版で4週おきに連載中のコラムに成果を盛り込み、研究を社会に還元するよう努めた。中国・北京及び旅順で行われた国際学会で2回発表し、韓国・ソウルで史料調査も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記「研究実績の概要」で述べたように、一定程度の実績をあげることはできたが、計画にやや遅れが生じている。一つには、予定していた研究協力者がDC2に採択され、その代わりとなる人材を得ることができなかったため、平安中・後期の古記録類から抽出した病と医療・医学関係の史料集成を計画通りにまとめることができなかった。また本務以外の業務多忙により、全体の計画遂行に遅れが生じてしまった。加えて、本研究課題に密接に関わる新たな成果、すなわち「病草紙」関連の重要研究文献の出版が相次ぎ、別に唐医疾令断簡の発見という事態が発生したため、若干の研究計画の見直しが必要となった。追加の調査や検討を行わなくてはならず、計画はやや遅れ、研究期間の延長を申請し、承認されたところである。
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今後の研究の推進方策 |
本来なら、本年度が最終年度であり、これまでの成果をまとめる予定であったのだが、上記「現在までの進捗状況」で述べたように、研究計画に変更と遅延が生じており、研究期間の延長を申請し、承認されたところである。今後の具体的な研究の推進方策は以下の通りである。 1.「病草紙」に関する研究発表を、4月の杏雨書屋研究講演会において、報告する。この研究講演会は研究者だけでなく、一般の方も対象としているので、研究成果を一定程度社会に還元できると考える。また新たに購入した「病草紙」模本について考察を加え、これを何らかのかたちで紹介したい。 2.平安中・後期の古記録類から抽出した病と医療・医学関係の史料集成を公開する。また本年度あまり行うことができなかった、蓬左文庫・宮内庁書陵部・東京国立博物館における本草・医書の閲覧調査を実施する。 3.9月には中国社会科学院歴史研究所に赴く予定であり、日唐医疾令関連の研究について中国の研究者と意見交換を行う。 4.本研究課題に関わる一般向けの本の出版を予定している。研究成果を広く社会に還元したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由) 上述のように、予定していた研究協力者が科研費特別研究員DC2に採択され、代わりの研究協力者が確保できなかったため、その謝金の執行がなされなかった。また海外の国際会議に2度参加し、海外調査を1度行い、その旅費に使用する予定であったが、旅費や宿泊費が別途支給されたため(主催者及び大幸財団の助成金を得た)、ほとんど使用せずに済んでしまった。業務多忙のため、ロシアでの調査を実施することができず、その分の予算も執行できなかった。 (使用計画) 計画を少し変更し、主に国内の調査を重点的に行う。また「病草紙」模本を入手し、これを何らかのかたちで紹介する。その上で、これまでの研究成果を、論文と一般向けの本にまとめる予定である。
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