本研究は、日本古代社会における病と医療・医学の実態を解明することを目的としている。グローバル化が進展する現代社会において、人類社会に共通する課題である生と死、病と医療の諸相について、日本の古代社会をモデルケースとして、歴史学的に具体的に明らかにすることを目指している。本来、昨年度で完結させる予定であったが、『病草紙』に関連する研究文献の出版や、新たに唐医疾令断簡が発見されるなどの予期せぬ事態もあり、1年研究期間を延長した。最終年度となった今年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1.新たに発見された唐医疾令断簡について検討を加え、その上で、日本医疾令の復原について再検討し、その成果「唐医疾令断簡(大谷3317)の発見と日本医疾令の復原」を論文として公表した。日唐律令制に関わっては、別に「唐の祠令と日本の神祇令」もまとめることができた。 2.『病草紙』についての研究成果を、武田科学振興財団杏雨書屋において「平安時代の医学と『病草紙』」として講演した。成果は『杏雨』22号(2019年刊行)に掲載される。なお新たに関戸家本『病草紙』の未紹介の模本を発見し、購入して(愛知県立大学所蔵)、その紹介冊子『愛知県立大学所蔵『病草紙』(関戸家本『病草紙』模本)』を作製した。奥書・本奥から、江戸時代の関戸家本『病草紙』の流布の過程がわかる貴重な模本である。 3.本研究テーマに関わる概説「医疾令と日本古代の医療」を、『鍼灸』誌に執筆し、別に岩倉市生涯学習講座でも講演し、また朝日新聞に『病草紙』に関しての研究が紹介されるなど、研究を社会に還元した。その他、本研究テーマとは直接関わらないが、書評や国際学会での研究成果の刊行、国立歴史民俗博物館における企画展示プロジェクトへの参加と国際シンポジウムへの参加など、日本古代史・唐代史に関わる研究成果をあげることができた。
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