研究課題/領域番号 |
15K02844
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
伊藤 俊一 名城大学, 人間学部, 教授 (50247681)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 荘園制 / 気候変動 / 室町時代 / 農業史 / 経済史 / 環境史 |
研究実績の概要 |
播磨国矢野荘の1346年~1460年にわたる散用状の入力を完了し本格的な分析に入った。米・麦・大豆・雑穀の年貢の収取量と和市(年貢物の売却価格)の変動を復元し、総合地球環境学研究所の共同研究「高分解能古気候学と歴史・考古学の連携による気候変動に強い社会システムの探索」で得られた気温と降水量のデータと対照した結果、以下の成果が得られた。 (1)14世紀中葉~15世紀第1四半期は湿潤と乾燥を10~20年周期で繰り返し、第2四半期には極端な湿潤と乾燥が短期で振動し、第3四半期は湿潤傾向だった。(2)15世紀第2四半期に気温の高温期があった。(3)気候変動と荘園での水損・干損のあり方はよく対応しており、耕作に適した降水量の幅を上下に外れると農業生産に支障が出た。(4)15世紀第2四半期に年貢収納量が減少し回復しない。(4)米・大豆の年貢収納量と和市とは連動するが麦年貢では連動せず、麦の広汎な年貢外生産(田の裏作)が想定される。(5)15世紀第2四半期に麦和市が高騰しており、米の端境期の需要が増大したと推測される。 これらの結果から、正長の土一揆や嘉吉の土一揆が生じている15世紀第2四半期は、気温が上昇し降水量が乱高下した異常気象の時期であり、交互に襲った洪水と旱魃の被害と再開発の動きも含めた社会からの応答が中世荘園制の崩壊につながったとする有力な仮説が得られた。 以上の研究の一端について地球研の研究会と東寺文書研究会にて報告し、研究論文を執筆した。昨年度執筆した14~15世紀の山城国上野荘の水害と再開発についての研究論文を学会誌に投稿し、意見付で返却されたので修正し再投稿した。また山城国上野荘と播磨国矢野荘の結果を総合し、高分解能古気候学との連携の意義を解説した原稿を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分析対象にする荘園が山城国上野荘、久世上下荘、播磨国矢野荘から広げられていないこと、分析が15世紀までで止まっていることは当初の計画からは遅れている。しかしエクセルに入力した各荘園の散用状データの分析が進み、地球環境学研究所の共同研究から得られた気温・降水量のデータとの対照を行ったことで、当初は予想しなかった重要な知見が得られたため、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
15世紀第2四半世紀の異常気象によって諸荘園が荒廃し、荘園社会の崩壊につながったという有力な仮説が得られたので、その検証のために矢野荘の土地台帳の分析と現地調査によって、この時期に荘園の現地で何が起きていたかを明らかにして行く。散用状データの分析も引き続き進め、他の東寺領荘園の状況とも合わせて検討する。 東寺領荘園の史料が激減する15世紀末以降の分析を進められていないが、15世紀末に生じたカタストロフを経て在地社会がどうなったかの問題は重要である。16世紀については興福寺領荘園などにも広げて分析できる対象を探す。また中世後期の気候と社会変動について、英語で刊行予定の総論を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
山城国久世上下荘、播磨国矢野荘等の散用状のデータ入力について、総合地球環境学研究所の共同研究から一部のデータを得られたので、データ入力の人件費が大幅に節約できた。またこれまでに得られたデータの分析と論文執筆に集中せざるを得なかったため、調査出張があまり実施できなかった。 15世紀第2四半期以降の矢野荘の荒廃の状況と原因を探るための現地調査、16世紀の状況が検討できる荘園についての現地調査を実施する。調査のために追加で必要な機材も購入する。また現在は相関関係等の分析にMicrosoft Exelを使っているが、統計ソフトが必要になれば購入する。
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