研究課題/領域番号 |
15K02850
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研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
森 明彦 関西福祉科学大学, 社会福祉学部, 教授 (90231638)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古代貨幣 / 調庸制 / 負担体系 / 貨幣制度 / 鋳銭司 / 正税 / 銅銭 / 鉛銭 |
研究実績の概要 |
本年度は、1982年に発表した奈良朝末期の新旧銭の存在形態の研究以来取り組んできた7,8世紀の貨幣制度の研究に関する著作『日本古代貨幣制度史の研究』を塙書房から刊行したことを受け、それに続く9世紀10世紀代の貨幣制度の変容過程と正倉院文書を考察の中心として8世紀中期から末期の貨幣の存在形態を明らかにする作業をおこなった。主たる研究は以下の二点に集約出来る。 第一は、9世紀における調庸制および力役の変容が貨幣および市にとっていかなる意味を持つことになったかを解明するため、畿内・畿内周辺、外国そして鋳銭司それぞれにおいて生じるであろう問題の抽出を行った。28年度の段階では論点が個別的段階にとどまっているが、仁明朝における富壽神寳の小型化との関係を解明する上で、これらの問題を統一的に捉える作業は不可欠であり、平成29年度において全体像をまとめ上げていく予定である。 第二は、正倉院文書を用いた貨幣使用の具体的在り方の研究である。前述した著書では主として律令や各法令によって制度史を叙述することに目的があったため、一部を除いて8世紀における貨幣使用の具体的在り方を叙述していない。9世紀における変容過程を見る上で、8世紀における貨幣使用の具体像の叙述は必須の事に属している。本年度は天平宝字年間の写経所における銭用帳の分析と宝亀年間の借銭文書の分析に取り組んだ。このうち借銭文書による月借銭と宝亀年間の写経所財政に関しては、平成29年度中に学術雑誌に論文を投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由は、以下の4点である。第一は、8世紀における銭貨の具体的在り方に関して、天平宝字期と宝亀年間における在り方に関する研究が成果のところで述べたように、特に宝亀年間の文書に関してかなり進んだことである。第二は、富壽神寳の小型化に関する仮説の検証のために必要な二つの分野の研究のうちの一つ(もう一点は、純粋に貨幣理論的考察であり、この点に関しては一応の見通しを出している)、すなわち9世紀における調庸制の変容が貨幣鋳造に及ぼした影響に関する考察に大きな進展があったことである。第三は、鋳造実験に関してである。鋳造実験に関しては昨年度、本年度とも行っていない。当初の予定では27年度、28年度においても鋳造実験を行う予定であった。ただし、これは研究が遅れたことを意味するものではない。小規模な実験を繰り返すよりも、課題を明確にして集中的に実験を行うことの方が合理的であると判断した為である。第四は、大英博物館付属貨幣博物館との間で研究会をもつ準備の為に、昨年刊行した著書『日本古代貨幣制度史の研究』(塙書房刊)の概要の英訳を始めており、近日中に交渉を行なう段階に至っていることである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究は次の三点において進める。 第一は貨幣の粗悪化・小型化と調庸制の変容および市制度変質の叙述である。この問題は二つの異なった面から追求する。一つは技術的側面からであり、鋳造実験によって粗悪化の原因・要因とその歴史的意味を捉えることを目的とする。もう一つは、小型化する必然性と小型化・粗悪下した銭貨に政権がいかなる認識を示したか、彼等の貨幣観を探求することである。 第二は正倉院文書を用いて、8世紀における銭貨行用の実態を明らかにするため、天平宝字年間における銭様帳の分析を通じて写経所財政と市との関係を解明し、官司による貨幣を用いた交易の在り方、および宝亀年間における月借銭と写経所財政に関する研究を学術論文としてまとめる事である。 第三は大英博物館貨幣博物館に於いて昨年刊行した『日本古代貨幣制度史の研究』をもとに研究発表を行い、東アジアの古代貨幣としての日本古代貨幣の特殊性の解明のため、西洋古代貨幣との比較研究を行う事である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に予定していた鋳造実験を平成29年度に行う事にしたためである。そのようにしたのは、鋳造実験を小規模に繰り返すよりも、やるべき課題を同一年度に行う事によって、問題が生じたときに直ちにその検証実験を行うことができると考えたからである。
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次年度使用額の使用計画 |
前回の科学研究費や多くの文化財保存機関からの銅製品の復元を手掛けてきている和銅寛における鋳造実験に使用する予定である。
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