研究課題/領域番号 |
15K02850
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研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
森 明彦 関西福祉科学大学, 社会福祉学部, 名誉教授 (90231638)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 平安貨幣 / 沽価と估価 / 交易と負担体系 / 新銭 / 市 / 鋳銭司 / 貨幣の不在 / 交換手段たる支払手段 |
研究実績の概要 |
本年度は本来は研究最終年度であり、平安時代の貨幣史について富壽神寳以後の銭貨の性格について政権の貨幣認識と社会の貨幣認識との間の祖語についての最終的な結論を提出する予定であった。ただ、研究期間延長の申請の際に述べたような身体上の問題から此の問題の結論は一年の猶予を戴くこととなった事をあらかじめことわっておきたい。本年度の成果としては、以下の二点を挙げておきたい。 ①東大寺写経所文書に関しては、天平宝字年間の財政関連文書のトレースを行ったことである。当該期の研究は、福山敏男・岡藤良敬・山本幸男の三氏の基礎的場文書整理の成果を充分に弁えておく必要がある。きわめて地道な作業であり、多くの時間を要する作業であるが、かって行った天平宝字四年発行の萬年通寳の流通状況に関する研究に再検討を加えるための作業と位置づけている。また宝亀年間の借銭解に関しては、研究史の整理と、関連資料に関する従前の研究の不十分点を究明した。これにより、宝亀三年のおよそ三ヶ月間における借銭事業の全体像を明らかにしえたと考えている。成果はできる限り早くまとめて学会誌に投稿したい。 ②平安時代の貨幣制度に関しても、この間進められてきた王朝国家期ないし後期律令国家期に関する研究成果の吸収に努めた。前著において明らかにしたように、貨幣の性格を究明するためには、貨幣が使用されている場だけの研究では十分ではなく、「貨幣の不在」に対する研究が必要となる。本年度は主に、祭祀・儀礼関係の文献収集をおこない、いかなる祭祀・儀礼に於いて貨幣が必要とされ、あるいは「貨幣の不在」が必要とされるかについての予備的考察を行っ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進行が若干遅れた理由は次の二点による。 ①研究の対象時期である貨幣流通が無くなる平安時代との比較のために、中世貨幣史の研究論文の消化に若干の時間を要し、その分が平安時代の研究に関する時間を割くことになったことである。 ②白内障が進行し、史料や論文を読む速度が若干遅くなっている。 以上の二点の問題が生じていたが、正倉院文書の研究が進展したこと、遅れは研究の幅が広がった結果である事を考量して進捗状況の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究は次の三点に絞って行う。 ①宝亀年間の借銭事業の問題に関しては、本年度の半ばを目途に学会誌に投稿し、成果を公に問いたい。 ②平安時代における貨幣の蓄積・流通・行使・鋳造といった、ようような場における在りようを分析する事で、為政者と市人の貨幣観を究明し、古代貨幣制度の変容・崩壊過程を描き出す。 ③交換手段たる支払手段であった日本古代貨幣と、東アジア以外の他の古代貨幣との比較によって、その特質を究明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究対象を若干広げたことと、白内障の進行による史料・論文解読の若干の速度低下に対して、研究期間の一年延長を申請し認められた事で、平成30年度に研究費を繰りのべて研究の遂行を行う事となった事が理由である。 次年度の使用計画としては、主として論文の複写・図書の購入、研究支援者雇傭費、国会図書館等の国内出張費および海外出張費としては英国貨幣博物館への出張費を考えている。
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