本課題申請者は、平安時代の宮廷儀礼を分析することで、当時の貴族社会における儀礼文化の歴史的意義を解明する研究に携わってきた。対象とする史料は、古記録・儀式書をはじめとして、指図・絵図のほか文学作品とさまざまである。よって、史料の歴史的性格を自ら再検証することが、研究の基礎作業として必要となる。儀礼研究に有効な史料を見極める儀礼史料論が必要であり、本課題を「史料学的研究」と称する所以である。 本年度は数年前より取り組んできた江戸時代の有職故実書『滋草拾露』を中心に、調査を遂行した。デジタル撮影が可能な場合は自ら撮影し、不可の場合は複写依頼および閲覧・記録により、主だった編目・内容の全体像を把握した。『滋草拾露』は数十冊にわたる叢書であり、また、所蔵機関ごとに伝来する編目を記録・整理するのであるが、同じ編目名であっても内容が異なったり、書き込みに相違がみられたりするなど、データ整理は困難をともなった。それは本叢書が実用に備えたその時々の記録であり、一部は未定稿のまま書写を繰り返された結果である。 数年にわたる調査によって、ほぼ全体の状況を捉えることができた。その編目一覧の公表を研究成果として予定している。さらに今後はその内容分析を通じて、日本前近代におけるさまざまな宮廷儀礼故実の変遷を追究することが、大きな課題となるであろう。 このほかにも今年度は、今後の史料学的研究の展開に向けて、建築史関係の研究書、文学作品である『栄花物語』の写本紙焼き、即位礼を描いた絵図を入手した。史料学的研究の裾野を広げることを今後も継続し、論考の発表を心がけたい。 一方、研究会については、古代史サマーセミナー、日本史研究会大会などに参加し、最新の研究成果を拝聴して理解を深めることができた。後者では古代史部会共同報告に対する誌上批判執筆を担当し、2019年4月に刊行予定である。
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