研究課題/領域番号 |
15K02854
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
下郡 剛 沖縄工業高等専門学校, 総合科学科, 准教授 (50413886)
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研究分担者 |
林 譲 東京大学, 史料編纂所, 教授 (00164971)
池田 栄史 琉球大学, 法文学部, 教授 (40150627)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 一字一石経 / 金石文 / 琉球仏教 / 筆跡 / 墓碑 / 日記 / 位牌 / 三牌 |
研究実績の概要 |
平成28年度は前年度に引き続き、那覇市文化財課の協力のもと、琉球大学考古学研究室と共同で、首里当蔵から出土した一字一石経調査を継続した。出土資料1200点余りについて、昨年度の基礎データ採録にひきつつき、今年度は全資料の実測図作成を終え、引き続いて約300点の資料について割付を行った。今年度は、残り900点の割付を行うとともに、割付終了後は、引き続いて製図を行う必要がある。昨年度中に報告書の作成に取りかかる予定であったが、昨年度の報告書執筆の段階で、割付と製図の作業を念頭に入れていなかったため、報告書の作成は今年度に取りかかりたいと予定している。 上記の作業と並行して、昨年度は著書『琉球王国那覇役人の日記~福地家日記史料群~』の執筆を行った。現在、出版社に入稿中で、今年度中に刊行する予定となっている。内容はおおよそ次のとおり。 もともと親見世に残されていた日記は戦争によって全て焼失してしまった。この焼失した日記をもって、従来は原本と考えてきた。しかしながら、それらを原本として扱うのは適切ではなく、清書本であったことを指摘した。そして、従来、福地家日記史料群は、その親見世の日記を書写したものとされてきたのだが、実際には清書される前の下書きの本であることを指摘した。下書き本であるが故に、その後、清書に向けて記事が修訂されてゆく様子が時系列で刻銘にわかる。揺れ動く記主の心情の変化を読み取れる。そのような日記史料群であることを述べた。この日記史料群の中には、福地家の位牌の仕立てや墓の建造の様子などが具体的に記述されている。すなわち、位牌などが作製された年次を具体的に知ることができる。今後、位牌・墓碑調査を行うことで、作製年次が明確なサンプル資料となる。 三牌の調査では、関東(鎌倉)、九州(大分・福岡)の寺院を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果としては予想以上にあがっている。昨年度の報告でも述べたように、予想をはるかに超える1200点余りの資料の存在は、それ自体が予想を超える大きな成果である。但し、その分作業量も多くなる。したがって、報告書の刊行については、予想よりも送れている。上記二つは二律背反の関係にあるため、全体としては、おおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、一字一石経については、昨年度に引き続き割付を継続、全資料の割付を終えた上で、製図も全資料について完成させる。その上で、論文執筆を終え、報告書の作成に取りかかりたい。 『琉球王国那覇役人の日記~福地家日記史料群~』については、今年度中の刊行を目指す。その上で、可能であれば、福地家の位牌調査を実施したい。 三牌調査についても昨年度に継続してゆく。地域別、時代別の大まかな特徴を把握し、琉球寺院がどの地域の系統に属するのかを探ってゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
古い銘文の上から、漆などを塗り直して、古い銘文が見えなくなっている資料の存在は容易に推測できる。当初、松岡山長興寺三牌がその事例と考え、一昨年度前倒し請求をして近赤外線カメラの購入を意図したが、実際の調査では、近赤外線カメラの使用に至らず、効用の確認ができなかったため、購入を見送った(この点の経緯の詳細は「大分市松岡山長興寺の三牌」にて記している)。昨年度、近赤外線カメラの効用が確認できたなら購入するつもりでいたが、効果を確認できる資料と出会えなかった。そのため近赤外線カメラの購入に至らず、使用額に差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
二年間、様々な寺院にて調査したが、現時点で近赤外線カメラの効用を試せる機会に恵まれなかった。その一方、一字一石経調査が予想以上に進展し、資料点数が1200点を超えている。報告書の論文では、筆跡を論点に加えたいと考えており、カラー写真の資料を多く報告書に入れ込みたい。そのため、一字一石経報告書の刊行には、今までの科研で出した報告書以上の金額を要する。そこで、近赤外線カメラの購入は諦めて、その分の金額を報告書刊行用にまわすつもりでいる。
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