研究課題/領域番号 |
15K02855
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研究機関 | 九州歴史資料館 |
研究代表者 |
酒井 芳司 九州歴史資料館, 学芸調査室, 研究員(移行) (00543688)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 木簡 / 大宰府 / 西海道 / 出土文字資料 / X線CTスキャナ / 樹種同定 |
研究実績の概要 |
九州歴史資料館に保管されている大宰府史跡出土木簡のうち、古代(飛鳥~平安時代)の木簡121点について、全体の再調査を行った。保存処理済みのものについては、原品と釈文との対象も行い、文字の状態を確認した。ホウ酸ホウ砂水溶液に保存されているものについても、状態を確認し、報告書において判読ができないとされていたものの中にも、判読が可能と思われる資料があることがわかった。 また、数点の木簡については、当館に設置されているX線CTスキャナで調査を行った。薄い木材の資料であるが、意外にも保存処理済みのものについては、樹脂の含浸の様子を観察することができ、木目に沿った方向のみではなく、木目と直行する方向にもある程度、樹脂が入っていることが確認できた。ただ、木材の中心部には樹脂が十分に浸透していないものもあることがわかった。 さらに、X線CTスキャナによる観察では、当初の予測通り、木目の状態を観察することで、スキャナの画像だけでは樹種の特定までは難しいものの、広葉樹か、針葉樹かの判断は十分につけられることがわかった。顕微鏡の観察なども併用しなければ、より精度の高い樹種同定は難しい。従来、非破壊の調査では、顕微鏡や肉眼観察でしか樹種を調べる方法がなかったが、X線CTスキャナを使用することによって、より根拠のあるデータにもとづいて、針葉樹と広葉樹の判定が可能になったことの意義は大きい。 大宰府から送られた木簡は、平城宮跡で出土するものは、すべて広葉樹製であることが知られている。一方、大宰府で出土する西海道各地から送られた木簡は針葉樹製のものが多いが、広葉樹とみられるものもいくつか含まれる。これらについて、X線CTスキャナで広葉樹製かどうかを確かめることができれば、大宰府と西海道、平城京との関わりについて新たな考察材料を得ることができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年目は九州各地出土木簡および都城出土木簡の調査を行う計画であった。九州各地出土木簡については、調査に赴くことが十分ではなかったが、都城出土木簡については、実際に奈良文化財研究所に行き、大宰府から平城京に送られた西海道木簡のうち、保存処理が済んでいるもののほぼすべてを実見して調査することができた。これによって、大宰府木簡と平城宮木簡とを比較する情報を得ることができた。 木簡以外の出土文字資料ではあるが、大野城跡出土柱根にある三文字の刻書を再検討し、これが「孚石部」であることを確定させ、「うきはべ」と読むこと、的臣(いくはのおみ)支配下の伴造(とものみやつこ)である的部(いくはべ)を意味することを明らかにし、当館の研究論集に掲載した。大宰府建設過程での氏族の動きについて考える材料を提供しうる成果であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、九州各地出土木簡について調査し、可能なものは当館まで輸送し、赤外線カメラやX線CTスキャナ等による調査を実施したいと考える。そして、これまでの調査成果をふまえて、秋に成果の展示を行い、研究成果の報告書を取りまとめる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、九州各地出土木簡や都城出土木簡を調査するために出張する計画であった。大宰府史跡出土木簡の再調査に時間を要したこともあり、とくに九州各地出土木簡の調査に赴くことができなかったため、旅費の使用が少なかった。この結果、上記の使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
二年目に行けなかった九州各地出土木簡の調査に赴くとともに、九州島内では出土点数も多くないため、その他の地域の地方出土木簡にも調査範囲を拡げ、実物の調査に出張する計画である。 この他、X線CTスキャナで調査するための各地の木簡輸送費、成果の展示のための費用、報告書作成費用等に使用する計画である。
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