研究課題/領域番号 |
15K02867
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
青木 歳幸 佐賀大学, 地域学歴史文化研究センター, 研究員 (60444866)
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研究分担者 |
大島 明秀 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (50508786)
ミヒェル ヴォルフガング 公益財団法人 研医会, 研究員(移行) (90619769)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 種痘 / 尚古集成館 / 佐賀藩 / 中津藩 / 熊本藩 / 若山健海 / 辛島正庵 |
研究実績の概要 |
28年度は、各自調査と研究発表会を実施し研究を推進した。第1回研究会を7月16日~18日、島津尚古集成館で開催した。薩摩における種痘史料調査では、八木称平、前田杏斎らの事績のほかに吉良元民らによる種子島種痘史料、天ケ城歴史民俗資料館において黒江家種痘史料を見出した。また日向で最初に種痘を実施した若山健海の種痘記録も若山牧水記念文学館で見出した。これらの史料はいずれも最終年度報告書に翻刻する予定である。 各自調査及び研究発表:代表者青木歳幸は、鹿島藩・小城藩・蓮池藩・諫早領等、佐賀藩領内種痘史料調査を実施し、その成果の一部を、日本医史学会等六史学会合同例会(2016.12.17・於順天堂大学)において「牛痘伝来をめぐる一考察」を、野中家史料研究会(2017.1.27、於佐賀大学)において「野中家の牛痘書」を報告し、『佐賀医人伝』(佐賀新聞社、2017.2.25)において楢林宗建・野口良陽・織田良益・下河辺俊益ら医師の種痘活動を執筆し、新知見と新史料を紹介した。 研究分担者ミヒェル・ヴォルフガングは、中津地方における疱瘡神、疫病神に関する調査(神社を中心に)、耶馬溪屋形家の種痘活動調査、中津辛島医家伝来種痘資料などの調査を実施した。来日外国人に関する天然痘資料調査について、ケンペル資料を調査した。同じく大島明秀は熊本地震の被災によって研究会への参加や資料調査がままならなかったものの、電子メールを通じて村井琴山研究の進捗状況を報告し、また、熊本県立図書館が復旧してからは、熊本における種痘導入の立役者・寺倉秋堤の「種痘人名簿」を発掘した。 研究協力者海原亮は、若山健海の種痘記録の分析・翻刻をすすめた。同じく小川亜弥子は、長州藩の種痘資料の収集につとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年次計画に従って順調に調査研究が進展し,達成度は約65パーセントである。佐賀藩の種痘に関しては,嘉永2年(1849)にモーニッケの指導を得て、佐賀藩医楢林宗建が種痘に成功し、その痘苗が佐賀藩から江戸へと伝播した経路などの解明のほか、佐賀藩領における引痘方による計画的な種痘実施の実態、種痘医と漢方医の対立・煩悶なども新たに発掘し、その研究成果を前掲『佐賀医人伝』などに反映できた。学会発表・論文は、前掲のほか、シーボルト没後150年記念講演会招待講演「シーボルトとその門人」(2016.09.10、於長崎歴史文化博物館)、ISHIK2016・在来知歴史学国際シンポジウム「日本薬局方の先駆的活動」(2016.10.23~26、於佐賀大学)、「『御診察日記』にみる西洋医学治療」(『佐賀学Ⅲ』、海鳥社、pp207~232)などを成果公開した。 ミヒェルは、中津藩では、中津地方における疱瘡神、疫病神に関する調査(神社を中心に)が進展し、耶馬溪屋形家の種痘活動に関する調査、中津辛島医家に伝わる池田流「痘瘡唇舌鑑図」の資料翻刻や、戴曼公資料の収集も進展した。ケンペル資料における天然痘に関する資料も発掘できた。さらに、九州の種痘伝来に関わる調査として、福岡藩医武谷祐之の種痘資料収集も行った。 大島明秀は、熊本藩の治痘政策・治痘術を明らかにするために、医学・医療の中心的人物であった村井琴山の写本「痘瘡問答」の読解に取り組んでいる。写本校合を行った結果、本年度に存在が明らかになった野中家本が最も原本に近いことが判明し、これまで京大本・九大本を底本として進めてきた校訂の方針を変更し、野中家本を底本として校訂版作成につとめた。また、寺倉秋堤の「種痘人名簿」を翻刻した。 沖縄での研究調査は、日程の都合により、最終年度にまわすことにした。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度において。研究会を福岡、長崎で開催し、九州諸藩・諸領における種痘実施状況と地域医療に及ぼした影響を比較研究し、研究報告書(含む史料集)のまとめを行う。また、種痘に関する論考を準備し、学術出版助成研究への応募も準備する。 各自調査において、代表者青木は、我が国最初に種痘を実施した地域である沖縄調査を実施し、種痘資料を収集し、その特徴を検討する。武田杏雨書屋、京都大学等での種痘資料調査と、九州諸地域の種痘関係資料の収集に努める。ミヒェルは資料収集調査を続けながら、中津地方における天然痘の小史をまとめる。大島は村井琴山「痘瘡問答」の校合を完了させ、校訂版テキストを完成させる。また、高橋春圃、寺倉秋堤関連の資料収集につとめ、熊本において、いつ種痘が根付いたのかを探る。 研究協力者の海原亮と小川亜弥子は、研究会や調査に参加しつつ、研究報告書の刊行に協力する。 各自調査に、並行して、最終年度の研究報告書(含む史料集)刊行のために、資料選択・翻刻もすすめる。現時点での主な翻刻予定資料は、野中家種痘資料、若山健海種痘記録、黒木家種痘資料、種子島家記、村井琴山「痘瘡問答」、武谷祐之『牛痘告論』、「痘瘡唇舌鑑図」(辛島家旧蔵)などを予定している。 直接経費120万円の内訳は、物品費20万円、旅費40万円、人件費・謝金10万円、その他は研究報告書刊行費50万円である。28年度繰越金を、旅費・人件費・研究報告費刊行費に配分して事業および研究報告書を完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.研究分担金400000円のうち,研究分担者ミヒェルが体調を崩したたため、予定した調査にでられず、旅費等に残がでた。 2.史料翻刻のための人材確保が困難だったことにより、人件費・謝金に残がでた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度の史料翻刻に100000、研究報告書刊行に残額の全額を使用する計画である。
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