本研究の目的はBC級戦犯浜法廷(1945年~1949年)の軍事委員会が下した死刑宣告に関して、刑の宣告・執行に際してその是非の判断基準となった法理論の分析を試みるものである。本研究は平成29年度を以て研究期間の最終年度としていたが、報告者の私的事情及び想定を超える膨大な資料の分析により時間を要し、当初予定より1年間の期間延長を行った。 横浜法廷での死刑制度は、軍事委員会が下した死刑宣告に対する①被告人側からの再審請求と、②刑を執行する際のGHQによる事前承認手続きがあり、これらが「再審」的な役割を果たしている。実際、横浜法廷ではこの手続きによって123名の被告人に対して死刑宣告が下され、53名が処刑、そして70名が減刑処分となっている。本研究の調査目的はこの死刑宣告の是非を問う判断基準の分析で、同法廷の刑の宣告文またはGHQの事前承認書を分析したところ、①被告人の犯罪行為に上官からの強制性があったのか(逆説的に被告人の犯罪行為に関与する「自発性」があったのか)、②加えて被告人がその犯罪行為に対して違法性の認識(事前承認書の表記は“moral choice(人道的選択権)”があったのかが問われている。ただしこの基準の運用は単純なものでなく、例えば捕虜を死亡させた場合、被告人が捕虜収容所の所長かスタッフかで顕著な違いを見せており、さらには東西の冷戦対立が生じると対日感情の緩和もあってか、再審請求で減刑措置が多発するなど、この判断基準の運用実態は前半期の場合と比べて大きく異なっている。現在、この判断基準の運用法について、福岡県北九州市で発生した捕虜殺害ケースを事例を基に論文執筆をしており、加えてこの事件の日本人弁護人(柴田次郎弁護士)が遺した資料と米国立公文書館所蔵の資料の比較分析も行い、それを研究ノートとしてまとめている状況にある
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