研究課題/領域番号 |
15K02875
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研究機関 | 恵泉女学園大学 |
研究代表者 |
梅澤 ふみ子 恵泉女学園大学, 人間社会学部, 名誉教授 (60126000)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近世史 / 民衆宗教 / 女性 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世末期から維新期にかけての民衆的宗教運動における女性の地位と役割を明らかにすることを目的としている。富士信仰を基盤として19世紀初頭に成立し中期にかけて発展した不二道を主な研究対象とし、併せて文化・文政期に京都・大坂地域で「切支丹」として摘発された信仰集団を取り上げる。平成27年度には以下の1~4の調査・研究および研究成果の発表を行った。 1.川口市文化財センター分館郷土資料館所蔵小谷三志関係史料の調査:不二道の創始者小谷三志や関東各地の地域的リーダーの子孫宅に伝存した文書・記録のうち、幕末維新期の不二道の動向および女性信者の行動や役割に関する史料を調査し、一部を翻刻した。 2.信州飯田の不二道信者のリーダー松下千代に関する史料の調査:松下千代関連資料は埼玉県立文書館および子孫の松下祐輔氏宅に保管されていたが、それぞれ平成27年3月と8月に飯田市歴史研究所に移管された。梅澤は同研究所研究員と協力し、松下氏宅所蔵分の史料の仮目録作成と、埼玉県立文書館からの移管分の点検・確認を行った。移管後は飯田市歴史研究所に出張し、幕末維新期の不二道の動向および千代やその他の女性信者の行動や役割に関する史料の調査・撮影を行い、一部を翻刻した。 3.研究成果の社会的還元:上記1)および2)の調査研究に基づき、飯田市歴史研究所主催の講座「飯田アカデミア」において「近世の富士信仰と女性」と題し、松下千代のケースに即して民衆的宗教運動における女性の役割りについて講演し、地域住民の方々や研究者と意見交換した。 4.京都・大坂地域の切支丹事件の調査:一件書類を当時の大坂町与力が写した『邪宗門一件』(東京大学史料編纂所蔵)を調査し、写真版に基づき一部を翻刻した。(以上)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で主な調査対象とする松下千代関連の文書・史料は、埼玉県立文書館と名古屋市の松下祐輔氏宅に保管されていたが、平成27年に長野県飯田市歴史研究所に移管された。同研究所および松下氏のご厚意によって、移管に伴う資料整理や仮目録作成に関与させていただき史料の調査・撮影を許可されたため、本研究の進展に大きな支障は起きなかった。ただし、松下家文書目録の作成を本科研の課題の一つとしていたが、飯田市歴史研究所が松下家文書目録を作成する予定であるので、梅澤は独自の目録を作らず、代わりに本研究に関する史料の解題を作成することにした。また、史料所蔵機関の変更に伴い、一回の出張に要する時間と旅費が増えた。また史料の写真撮影をアルバイトや業者に委託できなくなり、梅澤が撮影することになった結果、出張の回数を増やす必要が生じた。さらに梅澤が撮影した写真の質がモノトーン紙焼きに不適合のため、旅費・人件費・謝金・その他(現像・焼き付け)が当初計画と変わった。
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今後の研究の推進方策 |
1.川口市文化財センター分館郷土資料館蔵小谷三志関係史料および飯田市歴史研究所に寄託された松下家文書の調査・撮影・翻刻を継続する。 2.上記1の史料調査に基づき、不二道の信者ネットワークにおける女性の役割りについて、英語による論文"Women as Activists in a Popular Religious Network: Female believers in Fujido"を執筆する。19世紀日本のネットワークと女性についての他の研究者による論稿と合せて、論文集を編集する。 3.京都・大坂「切支丹」一件に関する史料の調査を進め、翻刻を継続する。 4.上記3の調査に基づき、「切支丹」一件で摘発された信者集団と女性信者の役割りについて、平成29年のEuropean Association for Japanese Studiesなど国際学会での発表に応募するための英文原稿を準備する。 5.史料の翻刻と解題、および日本語論文を含む報告書を平成29年度末までに作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の主要な史料の一つである松下家文書の史料所蔵機関の変更に伴い、史料の写真撮影をアルバイトや業者に委託できなくなった。そのために、アルバイトに支払う予定の人件費・謝金の支出がなくなった。また梅澤は写真撮影を許可されたが、古文書を撮影する機材を使用できず、小型のデジタルカメラで撮影したため写真の質がモノトーンの紙焼きに適合せず、業者に現像・焼き付けを委託することができなくなり、その他(現像・焼き付け)の支出がなくなった。そのかわりに設備費と旅費が増額したが、人件費・謝金・その他の費目における支出減少を相殺するには至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度、平成29年度の史料調査のための国内出張の回数を増やす。出張先も川口市と飯田市だけでなく、東京都内の史料所蔵機関や京阪地域の史料所蔵機関を加え、京都・大坂「切支丹」一件の現地踏査も行う。また、学会発表のためのヨーロッパ出張も、計画当初の予想にくらべ為替レートなどの影響で旅費が多く必要となる可能性がある。これらの理由で旅費を増額する。
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