研究課題/領域番号 |
15K02877
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
末田 智樹 中部大学, 人文学部, 准教授 (80387638)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近世日本捕鯨業 / 日本海沿岸捕鯨業地域 / 西海捕鯨業地域 / 北浦地域の捕鯨漁場 / 九州の巨大鯨組と中小鯨組 / 通浦と瀬戸崎浦への入漁 / 川尻浦の羽指雇用 / 運上銀・御用油 |
研究実績の概要 |
昨年度と同じ研究テーマに基づき今年度は、とくに北浦地域の捕鯨業に関する調査による史資料収集を進めた。第1。山口県文書館にて藩政史料のなかの北浦地域全体の近世近代捕鯨業に関する史料群を収集し分析を行った。次に神奈川大学日本常民文化研究所に所蔵されている北浦地域の川尻浦の捕鯨業に関する帳簿の史料群を収集し分析を進めた。さらに、天保期の松江藩(島根県)への九州鯨組の入漁に関する史料を収集し分析を行った。第2。第1の調査による研究成果としては、主に西海地域の九州鯨組が北浦地域の捕鯨漁場に入漁した背景について次の学会で発表した。第123回山口県地方史研究大会(2016年6月、山口市)、地域漁業学会第58回大会(2016年10月、大分市)、社会経済史学会中国四国部会山口大会シンポジウム(2016年11月、山口市)の3つである。また、近世近代漁業史や長州地方の地域史に関する専門家が参加する第10回水産史研究会(2016年9月、横浜市)、一ノ坂研究会(2017年3月、山口市)の2つで発表した。 以上、学会や研究会での報告にて多くの先生方にご教示を頂いたが、なかでも山口大学経済学部教授木部和昭先生および山口県文書館研究員、山口大学人文学部の若手研究者の方々に研究を著しく進展させる貴重なご教示を頂き、いくつかの課題の解明に繋がった。今後の研究展開としては、山口県地方史研究第117号(2017年6月刊行)にて「文化期、通浦・瀬戸崎両浦への九州鯨組の入漁事情」の論題で、文化期の北浦地域の捕鯨漁場(藩と漁村)と九州鯨組の諸関係について掲載予定である。かつ、2年間にわたる調査研究の成果に関しては、次年度の社会経済史学会第86回全国大会(2017年5月、東京都港区)および第124回山口県地方史研究大会(2017年6月、山口市)で発表を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究のテーマは「近世日本海沿岸地域の鯨組と捕鯨漁場と捕獲鯨の関係性」であり、具体的には西海地域(九州西岸=長崎・佐賀・福岡県)と北浦地域(長門国北西部沿岸=山口県)に大別される近世の西日本近海で展開した鯨組と捕鯨漁場と捕獲鯨の諸関係について、享保期から幕末期にかけて西海地域の九州鯨組が、北浦地域の捕鯨漁場を有する漁村へ入漁した状況の視点から一通り把握することができた。そのうえで、寛政期と文化期のそれぞれの入漁事情について深め、論文として発表することができた。両時期の内容は、西海地域の中小鯨組と巨大鯨組が北浦地域の捕鯨漁場へ入漁した背景や、北浦地域へ入漁した後に漁場地域を拡大した過程についてであり、当初の第1の研究目的が明らかになってきた。また、この2つの論文の注記のなかで、当初の第3の研究目的としていた日本海沿岸捕鯨業地域の史資料文献目録の基礎段階を作成することができた。 享保期以降、西海地域の九州鯨組(とくに平戸藩の中小鯨組と巨大鯨組)が北浦地域の捕鯨漁場へ入漁することで、萩・長府両藩への運上銀・御用油の上納および西海地域の捕鯨技術が北浦地域の各漁村へより一層伝播され、そのことが北浦地域の捕鯨漁場を有する藩・漁村に対して大きな刺激になったことや、九州鯨組が現地で宿泊費用・日雇い賃金を支払うことにより漁村自体が潤ったことなど、従来不明瞭であった西海・北浦両地域の諸関係について明らかにすることができた。加えて、北浦地域の捕鯨業関係史料の検討から西海地域の巨大鯨組の経営展開のほかに、平戸藩平戸町人を中核とする中小鯨組の存在が浮き上がってきたことは、西海地域の捕鯨業史研究にとっても大きな成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の第2の研究目的に掲げた日本海沿岸(近世の西日本近海)においてどのような鯨が捕獲され、その後に加工された鯨商品がどのような市場や諸藩に流通していたのかについて明らかにするために、従来20年以上にわたり積極的に進めてきた西海地域の巨大鯨組の調査研究に対し、最終年度ではとくに北浦地域の捕鯨業の調査研究を中心に以下のように進めていく。 まず2年間で収集した史資料の整理・分析を進めつつ、さらなる学会発表や論文発表を行い、多くのご教示を受けたい。現時点では、次年度に3つの学会報告と1つの研究会および2つの学会論文誌への投稿を予定している。次に調査については、引き続き山口県文書館や長門市役所や北浦地域の旧漁村集落などでの調査を予定している。また、捕獲鯨の鯨油・鯨肉・骨粉などの商品が、近世の下関市場や萩城下町、大坂へ流通していたことが浮かび上がってきたので、これらの地域についても調査を試みる。最後の補足調査としては、太平洋沿岸で捕鯨業が盛んであった和歌山県の旧捕鯨漁場の地域を調査し比較材料としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度計画していた研究文献・自治体史・資料館の図録類が売り切れ、図書購入費で使用額の誤算が生じ、また調査を予定していた地域(市役所・資料館・旧漁村集落など)が日程調整の関係で次年度へ延期され、かつ消耗品の支出が予定より少額となり繰り越しすることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
そこで研究文献・自治体史・図録類を古本屋からの図書購入、また購入できなかったものに関しては図書館等(相互貸借)での複写代や、現地調査で必要な物品の購入資金として計上する。そして、学会・研究会発表の出張費に充て、遠方の学会等にも赴き、進取的に発表を行っていきたい。昨年度に引き続き、北浦地域という日本海・瀬戸内海に面するフィールドの調査研究を、スムーズに進めるための必要経費として現地調査を中心に充当していくつもりである。
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