昨年度に続き、近代日本における地域総合開発と都市基盤整備における技術者の役割の解明を目的として、田辺朔郎関係文書に含まれる日記・書簡を中心に、調査・研究を進め、未撮影の書簡等のデジタル撮影を行った。この史料群には、京都御所水道敷設や関門海峡トンネル・北海道鉄道・小樽築港など、各地の様々な都市基盤整備に関わった人物の書簡や記録類があり、書翰・記録類などの一次史料からは、近代日本の地域総合開発と都市基盤整備に関わる当事者の見解や非公式のやりとりなど、刊行資料や公文書などには記されていない様々な内容が含まれる。 また、田辺朔郎は『明治工業史』の編纂を企画し、1917年(大正6)に編纂委員長を委嘱され、全10巻の刊行に携わったほか、『工師必携』『とんねる』『蓮舟遺稿』など数多くの著作を残した。田辺朔郎については、琵琶湖疏水事業との関係からその業績を論じられることが多いが、田辺の事績は琵琶湖疏水だけでない。田辺朔郎関係文書には、田辺朔郎という人物の全体像を実証的に明らかにしうる様々な内容の文書が豊富に含まれており、こうした日本土木史における田辺朔郎の役割、日本近代における土木史・都市形成史についても視野に入れて研究を進める必要がある。 この文書は、明治から大正・昭和期にかけての日本の土木史・都市計画史を実証的に分析する上での素材となる史料群であると同時に、文化財的価値も高い歴史資料である。このため、「保存」についても考慮しながら、研究者はもとより一般の利用者にも公開できる状態にするため、資料目録を作成するとともに、デジタルカメラで撮影し、今後の閲覧・複写にも対応することを視野に入れた資料整理を行った。
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