研究課題/領域番号 |
15K02881
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
太田 尚宏 国文学研究資料館, 研究部, 准教授 (40321666)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本史 / 林政史 / 地域史 / 森林政策 |
研究実績の概要 |
本研究では、歴史的経緯を踏まえた森林の保護・育成の重要性を広く社会へ喚起していくという目的のもと、近世・近代移行期に焦点を絞り、旧幕府・諸藩→府県→国と森林管理主体が変化する中で、重要でありながらも研究が皆無であった「府県管理時代」の動向について、各都府県に残る組織アーカイブズから当該期の森林政策に関わる資料を抽出する作業を行うとともに、岐阜県中津川市加子母地区の内木家(旧尾張藩山守)所蔵の歴史アーカイブズを主たる研究対象として調査・分析を実施した。 前者の作業については、予想以上に残存状況が断片的であることが確認されたものの、秋田県・岐阜県・長野県・群馬県など、いわゆる“林業県”については、比較的まとまっていることが判明した。 後者の内木家文書調査は、予備調査1回および合宿形式の本調査を3回行い、約3万点におよぶ資料について、容器単位の整理・記録と概要目録作成を完了した。続いて内容調査に着手し、未整理であった幕末~明治10年代の資料の資料番号付与・目録データ採録・保存措置を実施した。また、研究上必要な資料については、デジタル撮影を行って収集した。 この結果、明治初期における森林政策の地域波及には、a廃藩置県直後の旧幕府・諸藩から府県への行政移管期(明治4~5年)、b地租改正に伴う森林の官民有区分期(同7~10年)、c内務省による集権的官林掌握期(明治11年)、の3つ画期があったことが判明した。このうちa期では、近世以来の地域の森林管理・活用秩序を府県が追認する傾向が強く、b期に府県による折衷的政策の行き詰まりが露呈し、さらにc期の内務省の直接的介入によって地域の森林管理・活用秩序が動揺・再編成されていく点が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「府県管理時代」の森林政策に関する各都府県の組織アーカイブズの所在把握については、資料目録の検索を進め、秋田県公文書館・岐阜県歴史資料館・長野県立歴史館・群馬県立文書館に比較的まとまった資料が残されていることがわかった。また、内務省・農商務省と府県との往復書類綴などが大林区署→営林局→森林管理局と引き継がれた後、国立公文書館つくば分室に保存されていることが確認された。 中津川市加子母地区の内木家文書については、混乱していた保存状態を従前に戻したうえ、仮目録採録済みの資料と未整理資料を区分して、未整理部分の内容調査に着手しており、作業自体は一定の進捗をみせている(平成27年度は約500点の整理を行った)。ただし、未整理資料には書簡形式のものが多く、目録データ採録に予想よりも時間がかかることが懸念される。また、内容調査で資料の概要を把握する際、研究上必要と判断したものについては、同時にデジタル撮影を行っているので、分析素材の収集は順次進行している(平成27年度の撮影コマ数は、約800コマである)。 研究代表者および連携研究者・研究協力者は、上記の資料整理に従事するとともに、(A)明治維新の政権交代と文書・記録類との関係を基軸に据えたアーカイブズ学的研究、(B)収集した資料の内容分析を中心とした近世・近代移行期の歴史的観点からの研究、の2つの方向から、各自研究テーマを決めて関係資料の撮影・検討を始めており、平成28年度には研究会での報告を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
各府県に残る組織アーカイブズに関しては、予想よりも資料数が少ないことがわかったが、比較的まとまって資料が残っている県のアーカイブズ機関への調査を優先させることで、ある程度「府県管理時代」の森林政策の実相を明らかにできると考えている。 一方、地域研究モデルとして設定した岐阜県中津川市加子母地区の内木家文書は、平成27年度の調査によって、近世から近代にかけて継続的に資料が残されていること、国・府県の森林政策が地域の森林管理・活用秩序にどのような影響を与えたかを知るうえでの絶好の手がかりとなる内容を有することが判明した。 本資料群は、全体で3万点を超える分量であるが、近世資料については不十分ながらも地元研究者の手によって仮目録が作成されており、物理的な保存措置を施せば活用は可能である。未整理資料は明治期以降のものが中心で、平成27年度の調査により、官林に関する岐阜県・内務省官吏の出張調査に関する記録や、森林の活用と収益分配をめぐる村方の訴訟事案など、研究を進めるうえで重要な内容の文書が多数発見された。平成28年度には、本資料群の整理・目録化を重点的に行い、内容情報の収集に努めたい。 収集した内容情報をもとに、各自のテーマに即して分析・検討を行い、研究会での報告・議論を通じてその共有化を図る。また、最終年度に予定されている加子母地区での一般市民を対象としたシンポジウムに先立って、中間報告的な意味での市民講座なども計画したい。今回の調査に対する地元住民の期待度も高まっており、研究の深化とともに成果の普及還元にも努めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料調査への参加を見込んでいた研究協力者のうち数名が、都合により不参加となってしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
資料調査の開催時期について、研究協力者が参加しやすい日程を確保するとともに、1回の調査における参加人数を増加させる形で対応する。また、欠員が生じた場合には、速やかに人員の補填を図る。
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