本研究では、歴史的経緯を踏まえた森林の保護・育成の重要性を社会へ喚起するという目的のもと、幕府・諸藩→府県→国と森林管理主体が変化する中で、特に研究が乏しかった「府県管理時代」の森林政策の動向について、岐阜県中津川市加子母の内木家(旧尾張藩山守)所蔵の歴史アーカイブズを対象にして調査・分析を実施した。調査は昨年度に引き続き合宿形式で3回行い、未整理資料の目録化・保存措置・デジタル撮影を実施した。 今年度は、1730年代~1870年代の森林管理・活用に関する史料の内容分析を実施し、特に、①内木家文書の歴史アーカイブズとしての構造、②近世中~後期の尾張藩における森林政策の実態、③維新後の「府県管理時代」における森林管理・活用秩序の変化、の3点について解明した。その結果、(ア)内木家が尾張藩の御山守としての職域を拡大していく過程で文書・記録類の作成・収受が重要な役割を果たし、その結果が文書群の構造に大きく反映されていること、(イ)木曽ヒノキ林の天然更新が、尾張藩の御山守らによる森林コントロールによって維持されたこと、(ウ)森林コントロールは、枯損木の優先活用という藩の方針のもと、林相を熟知した御山守らが選定した枯損木を択伐する方法で行われたこと、(エ)廃藩置県後の岐阜県林政の混乱ににより、大規模な村方騒動が起きるなど旧来の森林管理・活用秩序が大きく動揺したが、御山守が形成した管理・活用秩序原則を基盤に再編が図られていったこと、などを明らかにした。 これらの成果は、2本の研究論文、1本の概説書収録論稿にまとめて公開した。また、調査の成果を広く一般に公開するため、2018年2月25日に「ふれあいのやかた かしも」においてシンポジウム「加子母地域における森林管理・活用の様相とその変化」を開催し、研究代表者による基調報告など6本の報告を行い、地元住民との意見交換の機会を設けた。
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