研究課題/領域番号 |
15K02882
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
Breen John 国際日本文化研究センター, 海外研究交流室, 教授 (90531062)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 大麻 / 神宮 / 神職会 / 地方長官 / 学務部長 / 昭和戦前期 / 社会誌 / 文化誌 |
研究実績の概要 |
大正・昭和戦前期の伊勢神宮の研究を深めるため、主に神宮大麻(=お札)というモノに関する調査を行い、調査結果に基づき、原稿を書き、発表も行った。昭和初年に伊勢神宮が年間千三百万体の神宮大麻を製造して全国に配り、全国世帯数の九割にまで浸透した事実に着目したのが研究の出発点である。三つの方法をもって研究を行った。1)神宮大麻の社会誌、2)神宮大麻の文化誌、3)昭和に見る天皇と大麻、である。 1) 社会誌では、昭和4年の岡山県をケーススタディーとし、大麻一体が宇治山田で製造されてから、岡山県で消費されるまでの過程(1年間)、特にその過程にみる儀礼や儀礼のエージェントに焦点を絞り、神宮大麻が変容していく姿(商品化、神聖化、再商品化、再神聖化)を考察した。2)文化誌では、江戸時代・明治・大正に亘るより長い歴史的スパンを取り、大麻をめぐる移り変わる言説、大麻の頒布制度の度重なる挫折、地方に見る大麻頒布に対する抵抗の様々を探った。3)の昭和に見る天皇と大麻では、a) 地方長官(県知事と学務部長)と神職会との新たな関係が昭和初年に生まれたことを示し、新たな頒布体制の儀礼が創出され、これまでにない強圧さをもって大麻が地方へと浸透していったことを指摘した。b) ますます強圧的になった頒布に対し浄土真宗が反対運動を実施するが、『中外日報』を主な素材にその運動の成功や敗北に光をあてた。c) 1930年代の国体明徴運動、国民精神総動員をうけ、神宮大麻が更なる変貌を遂げ、天照大神の御霊が実際に宿る、この上ない神聖なるモノと理解されるだけでなく、大麻を拝むことは天皇を拝むに等しいと見なされていったことを中央、地方両方の資料をもって立証した。 昭和戦前期にみる天皇と社会との関係を考察する際、御真影、教育勅語の他に神宮大麻なるモノにも我々が注目すべきであることを結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進展していると思うが、調査の問題では未解決のものはある。まず、地方における神宮大麻の頒布に関わる様々な事情を知るのには、大正期から県ごとに組織された神職会の会報が基本的な資料となる。ただし、現存している会報は福岡県、岡山県、京都府、愛知県、東京府、青森県ぐらいで極めて少ないだけでなく、現存しているものの多くは大正末年以降切れているためさらなる調査が必要である。次に、地方の動きの鍵となりそうなのは、昭和2年に設置された(知事の書記官たる)学務部長の役職である。ただ、学務部長に関する研究が皆無で、岡山県に資料があることは確認できたが、他に資料が存在するかどうかについてこれから調査する計画である。 昭和戦前期の地方の事情を調査するのには、少なくとももう二つ検討すべき課題がある。1) 地方に見る抵抗の有り様、これについては地方の新聞、日記の調査が必要;2)地方に見る他の神社のお札の頒布状況、これなどについては関東地方・中部地方に近世から近代にかけて盛んであった秋葉信仰に関連する秋葉山本宮秋葉神社などの札頒布状況を調査するのは有意義だろう。 本研究者はこれらの課題にこれから手をつけるつもりでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策については、昭和戦前期の伊勢神宮と日本人との関係性の理解を深めるために、神宮大麻の研究が有意義な方法であるが、上に触れた通り本研究者の調査は未完成である。より深い研究をするのに下記のような調査が必要のように思われる。 1) 地方神職会会報を調査する必要性(ちなみに、国学院大学には「近代神社・神道雑誌の目次データベース」はあるが、網羅的でないし、本研究者はそのデータベースに載っていない会報を見つけている)、2)頒布された大麻に対する地方の抵抗、個々人による大麻の扱いなどを調査する必要性(これに関しては地方の新聞、日記は欠かせないだろう。) 3)地方で頒布された(神宮でない)神社のお札を調査する必要性(近現代においてはとくに秋葉信仰が盛んであったため秋葉のお札の調査から着手する方法は有意義だろう。) さらに、来年度に予定している「戦後の神宮と環境問題:神道の行方」については大きな資料的制約があることが分かった。研究の大きな柱になるはずの、神社庁の調査は実現可能かどうか疑問になってきている。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の採択通知を受けたのが10月だったことや、受けた当時、別の研究課題を追求していたこと、さらに眼精疲労になるなど体調を崩していたことが重なっていて、調査、執筆、発表などが充分にできなかった。以上が初年度の予算を使いきれなかった理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に完成できなかった研究や今年度に予定している研究に対して予算を全て使用する計画である。 調査のための国内旅費宿泊費、調査結果を発表するための国内外への出の旅費、宿泊費に使用する。現段階では、リスボン、ロンドン、ワシントンにおける成果発表を目的とした海外旅行を検討している。
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