研究課題/領域番号 |
15K02882
|
研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
Breen John 国際日本文化研究センター, 総合情報発信室, 教授 (90531062)
|
研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
|
キーワード | 伊勢 / 神宮 / 遊郭 / 大麻 / 文化誌 / 社会誌 / 天皇制 |
研究実績の概要 |
今年度は主に二つの時代と二つの領域における調査、報告、執筆の活動を行なってきた。一つ目は末維新期という革命期に見る山田と宇治のまちや伊勢の神宮の変貌ぶりである。二つ目は神宮大麻と称する伊勢神宮のお札というモノの「社会誌」、「文化誌」で、それを昭和戦前期を中軸に考察してきた。 前者に関しては、主に古市の遊郭の歴史的位置づけや明治以降の展開をおって見たが、結論的には明治前のお伊勢参りは一種の買春ツアー的な性格を強く持っていたことを示すことができた。これについては龍谷大学、ギャラリー思文閣(どちらも京都市)、九州大学、Daiwa House, London, UK, San Francisco大学などのワークショップやシンポジウムで報告した。発表原稿はまだ未完成だが、『カミとホトケの幕末維新:交錯する宗教世界』(法蔵館)、と "Japan Past & Present: Society, Thought & Religion in Meiji Japan," Axel and Margaret Ax:son Johnson Foundation(どちらも30年度内刊行予定)として出版をみる。 後者に関しては、欧米のモノ論からヒントを得て神宮大麻を二つの視点から考察してみた。その二つとは一大麻が製造された時から消費されるまでの一年間という「社会誌」的視点、と明治初年から昭和戦前期に至って神宮大麻が日本の文化に根をはっていく過程を重視した「文化誌」的視点である。これについては、名古屋歴史科学研究会大会「天皇制と伊勢神宮」において招聘講演という形で発表した。さらに、神宮大麻を取り上げた原稿はまだ執筆/修正中だが、『近代天皇制と社会』という論文集や『歴史の理論と教育』という学術雑誌に掲載される予定で、さらに伊勢神宮の機関紙『瑞垣』の編集長から神職と神宮大麻の前史をテーマとした原稿も依頼され、執筆中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上に述べた二つの異なる時代や領域、つまり、幕末維新期の伊勢の変貌ぶりと昭和戦前期にみる神宮大麻を同時に視野に入れていくのは容易ではなく、また特に後者に関する史料を発掘し、それをまとめ、発表原稿や投稿原稿に書き上げるのにも想像した以上に時間がかかった。方法論を決めたのも遅かったことも、史料が不足していたこともその原因であった。 なお、国際日本文化研究センターの業務は、学術雑誌の編集だが、去年2号も刊行した関係上例年より倍ぐらい忙しかったこともまた「やや遅れている」事情と関係している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究に関しては、遊郭関係の画像資料(江戸後期から明治)を探し、地方における神宮大麻関係の史料(大正・昭和戦前期)の調査を継続的に行う一方、執筆活動や海外での発表を行う予定である。 執筆活動については、「研究実績の概要」で述べた投稿原稿(幕末維新期の伊勢について、昭和戦前期の大麻について)を完成させる他、文芸春秋から依頼されている「明治初期の宗教政策」(『近代日本宗教史 第1巻 維新の衝撃:幕末ー明治前期』2019年刊行予定)を、伊勢神宮や新興宗教の神宮教を中軸に執筆する。さらに英文でThe Meiji emperor and his ancestorsというタイトルで、明治天皇が明治期に構築していく、内宮祭神の祖先神天照大神や神武以来の皇霊との関係の形成過程を語り、天皇主権の問題と関連づけ、一本の学術論文として書き上げる。 そのほか、国内海外において研究発表を予定している。海外に関しては、Singapore 大学主催の明治維新150周年記念シンポジウム、 Vienna 大学における「近世に見る宗教と国家」のシンポジウムで発表を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は二つほどある。一つには、購入したいと考えていた資料がなかなか見つからなかったこと、いまひとつは海外において何度か発表をしてきたが、先方が負担してくれた旅行もあったため科研費を使用することはできなかった。
使用計画については、遊郭関係の画像資料の調査、地方における神宮大麻関係の国内調査のほかアジア、ヨーロッパなど海外において研究発表を行う予定である。
|