今年度は、前年度の仕事を完成に導くことを目標に、執筆活動、発表活動を行なってきた。具体的な活動としては、1)幕末維新期の革命期にみる山田と宇治や伊勢神宮そのものの変貌ぶりに関する論文執筆・発表実施、2)明治初年から昭和戦前期にかけての、神宮大麻問題を「社会誌」・「文化誌」それぞれの観点から迫った論文の執筆・発表の実施があった。 1)では、近世・近代を問わず伊勢を空間的に把握する必要性を論じてきた。とりわけ近世に関しては、伊勢の遊郭、奇跡の場としての伊勢、近代に関しては伊勢の文明開化、神宮の、庶民の巡礼地から大廟への変貌に光を当ててきた。「明治維新に見る伊勢神宮:空間的変貌の過程」 なる論文を刊行することができた他、同じテーマでもってNational University of Singaporeの国際学会、『カミとホトケの幕末維新』刊行記念連続講座、ロンドン大学SOAS歴史学部ゼミ、日文研報道懇談会などで発表を行なった。 2)では、社会学のモノ論からヒントを得て、神宮大麻(伊勢のお札)を、製造の時点から消費の時点までの「社会誌」と神宮大麻が明治初年から昭和戦前期に至って日本の文化に根をはっていく過程、即ちその「文化誌」を語り、物質的なモノをもって近代天皇制を理解する必要性を論じてきた。「近代天皇制と大麻問題」、「天皇と国民と神宮大麻:モノから歴史を考える」なる論文を刊行する他、「近代天皇制と大麻問題:モノから歴史を考える」というタイトルの発表を行なった。
他には、春秋社から依頼された原稿「明治初期の宗教政策」(『近代日本宗教史 第1巻』近刊)の調査や執筆に着手し、伊勢神宮の改革や新興宗教神宮教の展開を宗教政策全体の中に位置付ける作業を始めた。さらに、これまでほとんど研究されてこなかった、幕末維新の変更期における伊勢講の研究に着手し、関係史料の収集に取り組んでいる。
|