研究課題/領域番号 |
15K02885
|
研究機関 | 一般社団法人部落解放・人権研究所(調査・研究部) |
研究代表者 |
石橋 武 (朝治武) 一般社団法人部落解放・人権研究所(調査・研究部), その他部局等, 研究員 (80747733)
|
研究分担者 |
廣岡 浄進 大阪観光大学, 観光学部, 准教授 (30548350)
水野 直樹 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (40181903)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 白丁 / 衡平社 / 朝鮮総督府、 / 治安維持 / 警察 / 植民地 |
研究実績の概要 |
史料の収集整理と翻刻とにより、『朝鮮衡平運動史料集』の編集を進めた。校正を終え、2016年4月に出版する予定である。史料集の編集のために、3回の研究会を開催し、収録史料の検討を重ねた。史料集の刊行より、衡平社が大同社と改称した日中戦争期もふくめて、本研究を進めるための基礎史料を共有できるようになる。その内容は、主に京城地方法院検事局に報告された朝鮮総督府警察の報告文書であり、衡平運動の動向などが詳細に記録されている。衡平社が発行した大会ポスターやニュースなど初出の一次史料も散見され、それらの朝鮮語史料には適宜翻訳を付した。史料源である『思想ニ関スル情報綴』は、韓国の国史編纂委員会と高麗大学校アジア問題研究所とに分散所蔵されているため、それらをまとめて収録した本史料集の刊行は大きな意義を持っている。このほか、衡平社地方組織が襲撃された醴泉事件の予審終結決定や公判判決文、総督府警務局の年次編纂した『朝鮮の治安状況』からの抜粋などを収録し、衡平運動の全貌に近づくことができるよう努力した。また、主だった活動家の履歴や動向なども、警察の調査によって明らかにされている。さらに索引と地図をつけたことで、利便性は大きく向上した。 また、韓国・慶尚大学校人権社会発展研究所が開催した国際学術大会「衡平運動を再び考える」(原題ハングル表記、日本語訳)に本共同研究のメンバーが参加するとともに、次の6名が報告をおこなった。駒井忠之「水平社博物館所蔵の衡平社関係資料の紹介」、吉田文茂「衡平社大会に参加した猪原久重」、割石忠典「衡平運動と「生活問題」について」、関口寛「帝国日本の被差別民への眼差し」、竹森健二郎「衡平社史料から見えてくるもの」、廣岡浄進「醴泉事件の経過と影響」。(本欄の字数制限のため各報告の副題は省略した。)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画の1年目は、史料集の編集を軸に研究会を進めた。編集の核となった渡辺俊雄をはじめ、竹森健二郎、吉田文茂、割石忠典、駒井忠之、高正子、金仲燮、徐知延、徐知伶ら研究協力者諸氏とともに史料の整理と翻刻とを進め、公刊史料集として出版に漕ぎつけた。また、朝鮮語史料や金仲燮論文を翻訳する作業なども、有能な研究協力者を得て、滞りなく進めることができた。共同と分担とによる史料解読の成果としての活字による史料共有により、研究条件が一躍整備された。 朝治武、水野直樹、竹森健二郎、吉田文茂、高正子とで韓国に史料調査に赴き、既に入手したデジタル画像では判読が困難な史料の現物確認と高精度撮影、さらなる史料発掘の可能性を探った。その結果、編集中であった史料集を充実させることができた。 また慶尚大学校人権社会発展研究所が開催した国際学術大会国際学術大会「衡平運動を再び考える」(原題ハングル表記、日本語訳)に招待され、本共同研究のメンバーが、 日本の水平運動と朝鮮の衡平運動の交流の実相(駒井、吉田)、朝鮮牛の日本への移入(割石)、人類学者鳥居龍蔵による調査の中の白丁関係写真(関口)、大同社への転換の経過(竹森)、衡平社地方大会への襲撃事件(廣岡)といった多彩な報告をおこなった。また韓国の研究者からは、衡平社の経済活動、衡平社結成の地となった晋州における衡平運動前史、植民地統治下社会運動との関係、晋州での顕彰活動を続けてきた衡平運動記念事業会の紹介などの報告があり、貴重な学術交流をおこなうことができた。 なお、史料集には収録しなかったが、次項に後述のとおり、植民地期朝鮮で発行されていた日本語新聞から関係記事を検索・収集する作業を開始した。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目以降は、さらなる史料収集を進めつつ、成果発表をめざした研究会の開催を重ねていく。研究課題としては次のようなものが考えられるが、議論を通じて精査していきたい。植民地期の白丁の生活状況、屠畜業、皮革生産、衡平社メンバーの人物研究、組織や財政、他の社会運動との関係(とくに地方組織)、教育闘争、一般民衆との関係、差別事件、醴泉事件などの衝突事件、衡平社解消問題、大同社への転換と戦争協力、水平社との関係、日本当局の衡平社認識と統制、衡平運動の理念と思想、朝鮮民族運動との関係、文学や芸術における白丁表象など。 また、史料収集については、植民地期朝鮮で発行された新聞(縮刷版もしくはマイクロフィルム)のうち『京城日報』と『大阪朝日新聞』朝鮮版の検索を進めているが、今後、朝鮮語新聞『毎日申報』『時代日報』『中外日報』『朝鮮中央日報』の調査に進む予定である。『朝鮮日報』『東亜日報』についてはデータベースが整備されているので、その検索を、分担して進め、関係記事を収集・整理することとする。 さらに、朝治が館長をつとめる大阪人権博物館には、故・池川英勝氏が収集した『東亜日報』衡平運動関係記事の翻訳原稿(未発表)が所蔵されており、『東亜日報』のデータベース検索と関連づけて利用できるように検討する。 このほか、部落史関係史料では『同和通信』などにも衡平運動関係記事が散見されるので、日本側の雑誌や新聞の記事も集約し、その目録化をはかりたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
分担者の事務処理が遅れたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
分担者配分先において次年度に旅費等として支出する。
|
備考 |
(1)慶尚大学校人権社会発展研究所のウェブサイト内、国際学術大会「衡平運動を再び考える」開催内容
|