研究課題/領域番号 |
15K02886
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉開 将人 北海道大学, 文学研究科, 教授 (80272491)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中国 / 民族問題 / 歴史 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
第二年次である本年度は、初年度に収集した資料の整理と、追加資料の収集、未実施の現地調査の遂行、成果の一端を論文として発表することに重点を置いて研究を進め、予定通りの成果を得た。 資料の整理と収集は、1950年代の民族政策と現地社会の変革、そして1990年代の中共民族政策と各地の民族エリートたちの関連資料を中心に行ない、建国期の中共の民族政策が新しい民族史像の構築と不可分の関係にあったこと、1990年代以後の非漢族ナショナリズムの覚醒が、中共の推進する中華民族ナショナリズムの扇動と不可分な関係にあったことが明らかとなった。 9月には念願の雲南調査を実現し、雲南省武定県・富民県・昭通市・彝良県、および昭通市の隣接地である貴州省威寧県石門坎にも足をのばし、かつてこれらの地域一帯を代表する名士であった苗族キリスト教徒の民族エリートたちの事跡を調査し、マイノリティである非漢族側の民族史像構築の過程について明らかにした。 論文としては、1990年代以後の非漢族ナショナリズムの覚醒が、中共の推進する中華民族ナショナリズムの扇動と不可分な関係にあったことを論じた「“タク鹿”の歴史は誰のものか」を、12月に発表した。 以上、本年度の研究成果によって、本課題は中共の政策とそれに対する非漢族の反応を基軸に行なう研究であるが、加えて現地の民族ナショナリズムを代弁する民族エリートたちが、隆盛から没落を経て、そして復興運動へと立ち上がった歴史を明らかにし、それを基礎に政策と反応を理解する必要があることを確信した。 鍵は民族史に社会経済史的視点からの考察を加えることである。これは次年度に個人研究である本課題が完結した後に、改めて多分野の研究者による共同研究という形で発展させることになろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料収集と整理の作業はおおむね終わりに近づき、それらをもとに成果を執筆する段階を迎えた。最終年次である次年度は、未実施の現地調査を終えれば、基本的に執筆に専念し、予定通り、それらを成果報告書にまとめることができるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
最終年次となる次年度は、まずこれまでの研究成果の一部を「近代“苗夷”民族エリートのアイデンティティ」と題して4月に中国貴州省で開催される学会で発表し、成果の現地への還元を図り、また8月には貴州西北部から雲南東北部にまたがる地域の調査を実現し、現地民族エリートによる民族史論の構築過程を解明、あわせて関連資料を収集したい。これ以外は、基本的に執筆に専念し、年度末に成果報告書を刊行する予定である。 執筆を待つ論文題目は、以下の通りである。 (1)「“歴史上の中国”とは何か─中国共産党政権下の歴史空間理論」 (2)「建国初年西南中国民族エリートの連帯構想」 あわせて、日本国内で既発表の関連論文の中国語訳を進め、日本から現地の学界に向けて積極的に成果を発信したい。 以上の成果を基礎に、より大きな問題設定の中で課題解決を図るために、科研基盤(B)で少人数の共同研究を申請し、現在の成果の継続的な発展を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
適切に支出した結果、561円の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
差額は次年度に繰り越し、「物品費」として民族史研究に関する文献の購入に用いる。 最終年度である次年度は残額を十分に把握して、計画的な使用を目指す。
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