本研究では、中国共産党政権が百年をかけて構築し、今日強い影響力を持つに至った「中国多民族史論」の形成・流布の過程について、漢族以外の非漢族の歴史観、中ソ関係からの影響、史料批判の手法の三点を重点として、歴史学の手法によって解明を試みた。 明らかにした点は以下の三つである。第一に中国国内に多様な民族史像が存在し、それらの影響関係、緊張関係の中で「中国多民族史論」は形作られていること、第二に20世紀を通じたソ連との両国関係の影響が「中国多民族史論」の形成に大きな影響を与えていること、第三にこれらの研究の基礎となる共産党の史料に対しては史料批判が必要であり、それをいかにして行うべきかという点である。
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