研究課題/領域番号 |
15K02896
|
研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
三品 英憲 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (60511300)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 中国共産党 / 戦後国共内戦期 / 土地改革 / 基層社会 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、三品英憲(単著)「近現代中国の国家・社会間関係と民意-毛沢東期を中心に-」が掲載された論文集である渡辺信一郎・西村成雄編著『中国の国家体制をどうみるか-伝統と近代-』(汲古書院、2017年3月)が刊行された(同書第7章、275~315頁)。 この論文では、1946年以降に華北地域で実施された中国共産党による土地改革が、1930年代の長江流域の農村社会における地主制の展開を念頭において立案・実施された政策であり、自作農中心であった華北地域の社会経済構造からは大きく乖離していたこと、それゆえに華北農村では大きな混乱が生じたこと、そしてそうした混乱は共産党の支配を弱体化させたのではなく、むしろ強化したことなどを明らかにした。この論文は、政策を執行する側(中国共産党)を、毛沢東を中心とする中央指導部と、農村の現場で土地改革の執行に従事する末端幹部、さらにはそうした共産党の働きかけに応じた基層社会の人々(積極分子・村幹部)の三層に分けて捉え、特に中央指導部の動きを中心として、彼らがどのような認識に基づいてどのように運動したかを明らかにしたものであり、戦後の国共内戦期に共産党がどのような構造の支配を打ち立てたのかを明らかにする本研究の目的のなかで、きわめて重要な位置を占めるものである。 なお、この論文では、刊行された史料集はもとより、共産党支配地域で刊行されていた機関紙、さらには台湾の調査機関が所蔵している当該時期の共産党の末端党員が参照していたパンフレットなどを基礎資料として用い、従来にはなかった新しい歴史像を提示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、これまでの2年間で公表できた業績は平成28年度の1本だけであるが、このほかにすでに3本の論文(下記①②③)をまとめて発表(刊行)を待っている段階にある。①は、平成28年度に発表した論文と対になるものであり、1946年~47年に華北地域で実施された共産党の土地改革とそれが共産党の支配構造にどのような影響を与えたのかを、特に共産党の基層幹部と基層社会に焦点を当てて論じるものである。これは平成29年度中に刊行が予定されている論文集に掲載されることが決定している。 ②は、1946年~48年の華北地域における共産党土地改革がその支配構造に与えた影響について、特に地方レベルの共産党指導機関に焦点を当てて論じるものである。これは海外の学術雑誌に投稿し、現在審査中である。 ③は、近年の中国近現代史研究(主として20世紀初頭~1970年代までを対象とする諸研究)の到達点を大きく俯瞰しながら、戦後国共内戦期とりわけ本研究がテーマとしている土地改革を中心とする農村革命が共産党の支配体制にもたらした画期性について、歴史的位置づけを行ったものである。 以上のように、②を除く①と③についてはすでに公表されることが決定しており、②も合わせれれば、中華人民共和国建国後の歴史的展開を視野に入れつつ、戦後国共内戦期の共産党支配地域における支配・権力の確立過程を明らかにしようとする本研究は、おおむね順調に進んでいると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のように、平成28年度までの研究で、主として1946年から48年に至る中国共産党の支配確立の過程とその構造について、これまでにはない歴史像を提起するに至りつつある。 こうした現状を踏まえ、今後(平成29年度)は、中国共産党が「中国土地法大綱」を決議し、農村革命が急進化・暴力化した1947年後半から、その是正が図られた1948年末までを対象として、特に基層社会における権力構造の変化について追究する。その方策としては、これまで中国や台湾に赴いて収集した諸資料を丹念に分析することに加え、当該時期の共産党地方党組織が発行していた機関紙を丁寧に読み込む。また、1949年10月の中華人民共和国の建国とその後の歴史的展開を念頭に置き、戦後国共内戦期に華北地域で行われた土地改革と、それによって樹立された共産党の支配の構造が、中華人民共和国をどのような構造をもつ国家として成立させたのか、その後の展開にどのような影響を与えたのか、といった点についても考察を進める。 なお、特に建国前夜にどのような国家が構想され、それがどのように実現したのかについては、近年、新たに研究書が発表されている。本研究では、そうした最新の研究成果と対話しつつ、本研究が農村社会・農村革命に即して明らかにした知見を踏まえて独自の歴史像を提示し、学界に広く裨益することを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該研究の成果(論文)が第7章として掲載された渡辺信一郎・西村成雄編著『中国の国家体制をどうみるか』について、研究成果の公開と隣接分野を含めた専門家からのフィードバックを求めるため、刊行後に複数冊を購入することを予定し(当初の刊行予定は平成28年5月)、その分の費用を未執行のままとしていたが、同書の執筆陣のうちの一人の原稿提出とその後の校正作業が大幅に遅れたために、刊行時期が延期に継ぐ延期になり、結果的に同書の刊行は平成29年3月22日になった。この時期にはすでに平成28年度の予算執行ができなかったため、この分の予算が次年度使用額となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
上掲の『中国の国家体制をどうみるか』については、平成29年度の予算執行が可能になった時点で、研究成果の公開と隣接分野を含めた専門家からのフィードバックを受けるために複数冊を購入した(平成28年度中に私費で購入した分があったため、当初購入を予定していた冊数・金額よりも少なくなっている)。また、平成29年度中には、同様に、当該研究の成果である論文を掲載した研究書籍が2冊刊行される予定であり、これらについてもそれぞれ成果の公開と隣接分野を含めた専門家からのフィードバックを求めるために複数冊を購入することを予定している。次年度使用額はこうした研究成果の公開とフィードバックを受けるために使用する予定である。
|