平成29年度は、大きく分けて二つの研究課題についてそれぞれ成果を得た。 一つは、戦後国共内戦期(特に1946年後半から1948年前半)の華北地域における中国共産党の土地改革と農村社会の関係に関する研究であり、他の研究者との共著である図書2冊にそれぞれ論文を掲載した。これらの論考で明らかにしたことは、当該時期の中国共産党は、主たる支配地域であった華北地域の農村に対し、1930年代に華中地域で行った農村調査の結果に基づいて土地改革政策を立案・実行していたということである。土地改革は華中地域のように地主制が発達した地域に実施されて初めて経済的な意味を持つ政策であったが、華北地域は自作農を中心とする社会構成であった。つまり当該時期の中国共産党は華北地域社会の実態から大きく乖離した政策を実施していたのであり、そのことが革命工作の現場(農村)における混乱と、「乱打乱殺」と表現されるような土地改革運動の急進化を招いた。しかし、現実と乖離した政策によってもたらされたこのような社会の混乱と運動の急進化は、共産党の支配力を低下させたのではなく、逆に、社会に対する党(究極的には党の最高指導者である毛沢東)の操作性を上昇させたことを明らかにした。 第二の研究課題は、上に述べたような戦後国共内戦期土地改革による社会秩序・統治構造の変質が、中国近現代史の中にどのように位置づけられるのかという、中長期的な問題を扱ったものである。この課題に関する成果は、複数の歴史研究者が参加して執筆した、世界各地域・各分野の歴史研究の近年の成果と課題を総攬する書籍の一部として掲載・刊行された。この論考では、伝統中国の社会構造のあり方を踏まえ、近代において議会制が模索されつつも挫折した社会的原因について考察したうえで、その解として「党-国家体制(Party-State System)」が導入されたことを明らかにした。
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