平成30年度は考察を中華人民共和国時期にまで広げ、1954年の第1回全国人民代表大会選挙をとりあげた。それは本科研で分析してきた中国の自由主義者と彼・彼女らを支えてきたと考えられた商工業者にとって、自らの政治信条を実践する重要な機会となったからである。検討の結果、自由主義者および商工業者は共産党権力の社会への浸透のなか、政治の主体としての意識に基づき、困難な情況のなかでも一定の成果をあげたことを確認した。 また本年度は最終年度でもあり、中国の民主主義を自由と平等の相剋のなかで考えるという本科研のテーマのとりまとめを行うことを目指した。そのために先行研究をいまいちど検討し、その成果と課題を明らかにした。本科研でも明らかにしたように、中国のみならず、アジアにおける民主主義概念は多様であり、中国では平等を重視する傾向が最終的には主流となるが、そうした思想傾向に対して自由の価値を求める人びともおり、その一部は1949年革命以後も中国大陸にとどまった。その背景には、中国社会の特質への理解があり、大きな力を持つ行政府による社会改造への期待があった、と言える。 また本年度は研究のとりまとめを行うために、浙江工商大学の金俊氏を招いて、本科研のテーマに関するワークショップを行った。また台湾の中央研究院近代史研究所において、研究成果の一端を発表する機会を得た。そこでの討論もまた得がたいものであり、金俊氏とのワークショップを通じては、19世紀後半から20世紀初めの思想史との関連性の分析の必要が問題となり、台湾での研究発表を通じては、冷戦の中国への影響の考察の必要性が強調された。
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