前年度までの研究と史資料の蒐集を継続し,財務官僚群の動向と農商諸勢力の実態解明に向けての研究を進展させるとともに,本研究を元末の諸勢力に関する研究と接続させることをめざす発展的な研究を行った。 本年度はとくに,元代中後期の平江を中心に活動した文人官僚鄭元祐と,当時の農商諸勢力の代表格ともいえる昆山の顧瑛を取り上げ,彼らに関する諸史料を手がかりに,当時の平江をめぐる社会状況の変化について考察した。元代中後期の平江と浙西地方には,さまざまな立場の文人士大夫がいたが,鄭元祐は,顧瑛らとの交流のなかで幅広い人間関係を築きつつも,元朝には仕官せず,これと一定の距離を置く姿勢を保ち続けた。しかし,張士誠政権が平江に入城するとこれに仕え,儒学教授として後進の指導にあたるとともに,平江で生涯を終えるまで,租税や海運を中心とした社会経済に対する現実的かつ具体的な関心を一貫して持ちつづけた。彼らの事績を分析することにより,元末の浙西に拠った張士誠政権と,本研究で分析の対象とした財務官僚や農商諸勢力の関係について,その一端を明らかにすることができた。 また,この研究は将来的に,元代江南の社会経済の具体的実相の解明や,宋代・明清代との連続性あるいは質的相違の解明,モンゴル政権による江南経済支配の特質の解明につながっていくことと考えられる。 なお,以上の研究内容は,「鄭元祐と元代中後期の平江」と題する研究論文として公刊した。
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