研究課題/領域番号 |
15K02900
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
遠藤 隆俊 高知大学, 人文社会科学系教育学部門, 教授 (00261561)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中国 / 宋代 / 士大夫 / 家庭 / 家族 / 宗族 / 房 / 科挙 |
研究実績の概要 |
平成27年度は「家庭」「家族」「宗族」など、中国家族に関する諸概念を再検討するとともに、東京大学や東洋文庫、中国の上海図書館などにおいて族譜の資料調査を行い、宋代士大夫家族の秩序と構造、および階層移動について計量的な分析を行った。 その結果、中国の家という概念は非常に広く、一組の夫婦とその子女からなる小家族すなわち家庭から、それが複合した拡大家族すなわち家族、そして同姓血縁集団を統合した宗族をも含む概念であることを再確認した。ただし、血縁の構造から見れば、家庭と家族は連続性があるが、家族と宗族の間には大きな断絶があり、宗族は家族と必ずしも連続する集団ではなく、ある時点で祖先を定めてそこから派生した同族集団であることが判明した。 これは士大夫家族の「房」を分析する過程で明らかになったことであり、「房」とは本来家庭内の居室を指す語であるが、家族が拡大すると家族内の派別を指すことになる。それが固定して宗族内の派別を指すことになり、宗族の組織化に大きな影響を与えたことが判明した。家庭や家族は常に変化するが、房や宗族はいったん固定すると変化がなくなる。ここに家庭、家族と宗族の違いがあり、宗族は家庭や家族に比べて、極めて人為的であったことが確認された。 また、士大夫家族の身分や階層移動を検討した結果、彼らの官僚身分は、これまで指摘されてきたとおり、直系家族ないし房単位で見た場合、確かに3世代も続けば先細りになった。また宗族全体としても必ずしも官僚身分を維持することができなかったことがわかり、宗族が科挙官僚再生産の基体であったとする従来の説は再検討が必要であることが判明した。次年度は、その再検討と背景の研究を行う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国家族の諸概念、すなわち家や家庭、家族、宗族に関する再定義が概ね完了するとともに、房を中心とする士大夫家族の構造を明らかにすることができ、本年度の計画にある当初の目的を概ね達成することができた。さらに、族譜の調査と分析を通して次年度の計画である士大夫家族の身分や階層構造にも分析を進めることができ、次年度計画への見通しを大きく立てることができた。ただ、親親や尊尊の原理など、喪服の構造を解明する研究が必ずしも十分ではなかったので、平成27年度はおおむね順調に進展したと評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、当初の計画通り東京大学や中国、韓国の研究機関において族譜や石刻、文集、墓誌資料の調査を進め、士大夫家族の階層移動に関する計量分析を行う予定である。具体的には蘇州范氏の家族資料を使って、彼らの官僚身分の上昇、下降の傾向を家庭、家族、宗族単位で分析、比較するとともに、その背景についても検討を進めるつもりである。 また前年度に分析できなかった喪服の関係についても併せて分析することにより、士大夫家族の構造を尊尊と親親の原理からより深く追究することができる。その結果を、国内外の研究者と意見を交換することによって、成果を公表する予定である。
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