研究課題/領域番号 |
15K02904
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
平田 茂樹 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (90228784)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ネットワーク / コミュニケーション / 手紙 / 空間 / 周縁社会 / 私的領域 |
研究実績の概要 |
宋代の手紙史料を通じて、当時の士大夫がどのような交流を行っていたかについて次のような結論を得た。(1)手紙は3つの類型が存在する。①公的な文書とほぼ同じ機能を有するもの。官府へ公式文書を送付するとともに、上司、部下、同僚などの官僚へ同内容もしくは詳細な経緯を記した手紙を送ることにより、政治的な「交渉」を進めていく。②私的なプライベートなやり取りをする機能を有するもの。当時の手紙史料を読み進めていくと現在のSNSのように私的な仲間内で手紙が読まれ、その中で意見の交換が行われる。この種の手紙には文学作品、哲学作品、上奏文の副本などの各種の文献や肉、魚、酒などの贈り物を伴うことが多い。③①と②の中間的な手紙であり、官界や士大夫の世界の交際に用いられる手紙であり、「啓」という形式を取ることが多い。現在残る「啓」には赴任、陞進の挨拶、推薦を受けた謝辞、誕生日などで挨拶や贈り物を受けた返礼の挨拶などである。(2)手紙は現物のやりとりに加えて、上記に述べた各種の贈り物を伴うことが多く、「序」「題跋」「記」等の文学作品とワンセットとなっているものも多く見られる。手紙の解読は(1)の①の公式文書、(2)で示した各種文学作品などと一体化して行う必要がある。(3)手紙の研究には動態的観点が必要である。当事者間での手紙のやり取りに加えて、(1)②に示したような、「私的領域」において集団で手紙を読む過程を伴うことがある。さらに、士大夫の手紙は保存され、鑑賞の対象となるとともに、宋代の手紙の多くは文集に採録されることとなる。(4)手紙は特に交際がしにくい「周縁」的世界において大きな機能を果たす。都などの中央においては直接的な交際の事例を多く見ることができるが、「周縁」的世界においては、手紙を介しての交際の事例が多く、その中で政治、文学、哲学などの様々な意見交換が為される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内外の学会で数度にわたる研究報告を行い、また既に数編の研究論文を公表した。さらに、海外の研究者との共同研究の成果として論文集の刊行も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本課題によって宋代士大夫のネットワークやコミュニケーションについて多くの知見を得ることができた。この知見をもとに、2019年度よりは新たな研究課題「宋代社会における多層且つ複合的な士大夫ネットワークの研究」を進めていく。こちらの課題では手紙史料に加えて、記、題跋、序、記などの各種史料を併せて読み解くことによって、当時の複雑なネットワークやコミュニケーションの実態を解明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に開かれる国際学会の旅費として残したため。
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