最終年度はこれまでの研究成果を国際学会で報告を行うとともに、その成果を学術雑誌に掲載することを目的として進めた。 その結果として、以下のような手紙を媒介とする宋代士大夫の多様なネットワークとコミュニケーションの実態を明らかにすることができた。 手紙を媒介する宋代士大夫のネットワークを考えるうえで、中央と周辺・縁辺においては異なる構造が存在していることが判明した。首都を中心とした士大夫・官僚においては、居住・生活空間が接近しているため、直接的な交流も可能であり、そのため、士大夫・官僚は、公式文書に準ずる公的な手紙を使いやり取りをする一方、私的な手紙の交流も同時に行っていた。彼らは手紙を一種のSNS(Social Networking Service)のように用い、私的な集団内においては上奏文、文学作品、哲学作品、歴史学作品などを手紙に付する形で議論を行うとともに、直接会合を開き、手紙を見ながら討論を行うことも行われた。 一方、周辺もしくは縁辺に居住する士大夫・官僚にとっては、交通が不便なうえ、直接的な交流は限られていたため、手紙は彼らの政治、社会、経済、文化活動を支える重要な手段として機能した。そのため、遠距離間の交流の手紙の場合、より詳しい情報が記され、討論の手段として使われることが多かった。こうした違いはあるものの、手紙の分析を通じて、宋代の士大夫・官僚は、従来の婚姻圏をもとに考えられてきたネットワークの範囲とは異なり、場合によっては全国にまで及ぶ広範囲にわたるネットワークが存在し、そのネットワークを通じて各種の活動が営まれていた実態が明らかとなった。、
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