本研究課題は、当初は平成29年度で終了する予定であったが、現地実見調査の対象としていた中国北西部のかつて西夏王国の支配地域に建設された石窟寺院である敦煌莫高窟や瓜州楡林窟で西夏の人名に関する新たな資料の発見があり、平成29年度中にそれらの収集作業が完了できない見通しとなったことから、研究期間を平成30年度まで延長することとした。 研究代表者の佐藤貴保と研究分担者の荒川慎太郎は、平成30年12月に、前年度までに調査しきれなかった敦煌莫高窟、瓜州楡林窟の石窟壁面に残る西夏時代の墨書・刻文を再調査し、平成29年度に『敦煌石窟多言語資料集成』(松井太・荒川慎太郎編、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)で発表していた人名データの修正や、新たに発見したデータの移録を行った。 また平成30年度には、これまでの研究成果を取りまとめるものとして、本研究課題と同名の冊子体報告書を製作し、国内外の西夏史研究者や研究機関に送付した。この報告書では、佐藤・荒川は前掲の敦煌莫高窟・瓜州楡林窟での西夏文・漢文で書かれた西夏時代の墨書・刻文データの録文を掲載した。また佐藤は、瓜州楡林窟第29窟の男性・女性供養人像の傍題墨書(人物の肩書きと人名)・供養人像の服装・高さ等の情報を集成した。 本研究課題は1年間延長したうえ平成30年度で終了することとなった。本研究によって、西夏時代にはタングート人が漢人風の、漢人がタングート人風の名前を名乗る事例、漢人がタングート風の名前と漢人風の名前の両方を有していた事例を収集することができた。そして、西夏王国が皇族や官僚レベルだけでなく農牧民レベルにおいても、タングート人・漢人の文化が相互に交流・融合する多民族国家であったことを、命名文化という視点から明らかにすることができた。
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