研究課題/領域番号 |
15K02918
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
長崎 暢子 龍谷大学, 人間・科学・宗教総合研究センター, 名誉教授 (70012979)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アンベードカル / デューイ / インド民主主義 / インド独立 / 思想 |
研究実績の概要 |
2014年度末に、長崎暢子・堀本武功・近藤則夫編『現代インド3 深化するデモクラシー』(東京大学出版会、長崎は「近代政治思想の形成と展開」などを執筆)と、「差別解消の方法とヴィジョン-ガーンディーとアンベードカル」(田辺明生・杉原薫・脇村孝平編『現代インド1 多様性社会の挑戦』東大出版会)を刊行し、本研究の視点を定めることができた。その後は、研究計画で指摘した、アンベードカル研究の「相対的な遅れ」を意識し、アンベードカル研究のサーベイと、アンベードカルの著作そのものの読み込みに多くの時間を割いた。具体的には、著作集(Writings and Speeches)と、いわゆるAmbedkar PDF(ウェブでアクセス可能)を利用して、democracy, education および Deweyに関する言及箇所を、検索ツールを利用しつつ特定した。アンベードカルの思想形成にとってDeweyの民主主義論がきわめて重要な位置を占めていること、しかしそれをインドの歴史と宗教の理解に援用する過程で、多くの独創的なアイデアを出していることを知り、その主要なものを2016年1月の専修大学における報告で発表した。 本年度は、東京にたびたび出張し、アジア経済研究所や政策研究大学院大学の図書館において、アンベードカルと、その後、現在にいたる、ダリットの運動の歴史についての概観を得るように努めた。そして、2016年3月にロンドンに出張し、主としてロンドン大学図書館において、アンベードカルの著作(原著版および死後の版の序言)およびアンベードカルを論じた二次文献(多くの分野にまたがっており、今回は主なものの閲覧にとどまった)を検討するとともに、アンベードカルとデューイの関係についての論考もある程度集めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
専修大学における発表では、隣接分野の研究者(篠田隆、舟橋健太、鈴木真弥など)の参加を得て、アンベードカルがデューイのassociated life概念をどのように理解していたのか、アメリカの奴隷制やイギリスの階級社会を、インドのカースト制度との対比でどのように見ていたのか、などについて、有益な討論をすることができた。アンベードカルは、カースト社会の階層間関係がデューイの言うassociated livingという基本的な社会関係を否定するものになっているとし、さらにこのデューイの発想をインド古代史の解釈にも適用した。その意味で、デューイの影響は、アンベードカルのカースト社会論、民主主義論の背骨のような存在であることが浮かび上がってきた。田辺明生氏やSugata Bose氏など、他の研究協力者とも舟橋科研の研究会、INDASの研究会などで意見を交換した。 また、ロンドン大学での調査から、アンベードカルとデューイの関係について言及した論考が最近急速に増加していることに強い印象を受けた。それらは、必ずしも本研究と視角を同じくするものではなく、思想史、哲学、教育学、文化論などの分野にまたがった、相互に関係のないものがほとんどであるが、今後、インドの内外でアンベードカル研究が進むこと、なかでもデューイとの関係は一つの焦点となるであろうことを確信した。 なお、『世界歴史大系 南アジア史4』(山川出版社、近刊)の編集に当たり、自ら執筆する「第4章 独立インドへの道」を準備する過程で、本研究に間接に関係する近年の日本語の研究を読む機会があった。この作業はまだ続いているが、インド現代史全体にとっての本研究の意義を考えるのに大いに役立った。さらに、より一般的にも、本研究の内容(とくにアンベードカルの民主主義論)が、インド近現代史にとって重要な意味を持っていたという思いを強くした。
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今後の研究の推進方策 |
最近になって、著作集の全体がウェブ化されるなど、アンベードカル研究は国際的にも大きく進展しつつある。引き続き、アンベードカルの著作の読み込みを進め、3月にロンドンで集めた文献をフォローするとともに、今年度も刊行されるであろう文献の消化を心がけたい。 今年度は、『世界歴史大系 南アジア史4』(山川出版社)を刊行し、そのなかで本研究の前提となる(研究計画で論じた)インド民主主義の歴史学的把握についても論じる予定である。インド近現代史における社会主義、社会民主主義、民主主義の相克、関連についても本研究の視点から考察を進めたい。 また、研究協力者である、舟橋健太氏、田辺明生氏、Sugata Bose氏、Ayesha Jalal氏などとの研究会を予定しており、その結果も見ながら、本年度後半にイギリスまたはアメリカの大学図書館で調査を行うことを考えている(当初考えていたコロンビア大学の状況はある程度わかったので、緊急性が薄れたが、Dewey研究に踏み込めれば実現したいと思っている)。 国内では、年度内に、本研究の進捗状況を報告する予定である。できればそれを、ディスカッション・ペーパーにするよう、努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウェブサイトでアンベードカルの著作が公開になったため、それを利用した研究を優先的に行った。検索を利用できる反面、多くの事実が明らかになり、整理に時間がかかった。そのため、周辺資料や二次文献の購入を予定していたものを、28年度以降に回すことにした。 3月にロンドンに出張し、購入すべきアンベードカル生存時の資料や二次文献を整理した。現在、それにもとづき、購入を進めている。
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次年度使用額の使用計画 |
アンベードカルの著作の没後の初版につけられた解説文などを系統的に集めるとともに多方面からのアンベードカル研究・デューイ研究の二次文献を丹念に収集し、消化する。書物の購入のほか、そのための調査に伴う交通費などにも充てる。
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