研究課題/領域番号 |
15K02918
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
長崎 暢子 龍谷大学, 人間・科学・宗教総合研究センター, 名誉教授 (70012979)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アンベードカル / デューイ / インド民主主義 / インド独立 / 思想 |
研究実績の概要 |
本年度は、次項で述べる研究内容上の進展に加えて、多くの国際会議や研究会に参加し、関連研究者と交流した。そのなかで、本研究についても意見を交換し、示唆を得た。 6月7日には、政策研究大学院大学において、Ayesha Jalal教授(Tufts University)とSugata Bose教授(Harvard University)を中心とするワークショップを開催した。両報告とも、南アジアの歴史・文化を踏まえて、それがイスラム世界(中東)や東アジア(日本、中国、東南アジア)にどのような影響を及ぼしてきたかを、Muslim universalism, Asian universalismといった視点から論じ、翻って現在のインド、パキスタンなどの諸国がおかれている径路依存性とその潜在的なポテンシャルを探るという姿勢で貫かれていた。私自身の理解もこのような視角を共有しており、本研究をそこに位置づけるための重要な視点をいくつか得ることができた。 このほか、7月31日にはインドにおける日本人抑留についての報告へのコメント(「第二次大戦とインド独立-加藤久子報告に寄せて-」を行うなど、RINDAS(龍谷大学)の研究会に積極的に参加するとともに、INDAS国際シンポ(京都大学)、RINDAS国際ワークショップなどにおいても、ダリット研究、仏教研究、南アジア史研究に携わる内外の研究者と意見を交換した。本研究に直接関わる領域では、篠田隆、田辺明生、舟橋健太、志賀美和子などとの交流が有益であった。 さらに、2月にはケンブリッジ大学を訪問し、アジア・アフリカ史のセミナーに出席するとともに、数名の歴史家や人類学者と意見を交換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、2016年1月の専修大学における報告を踏まえ、引き続き、近年のアンベードカルの比較思想史的研究(Ananya Vajpeyi 2102, Aishwary Kumar 2015など)を消化しつつ、アンベードカルの著作を読み込むことに時間を割いた。著作集(Writings and Speeches)とAmbedkar PDFから、検索ツールを利用してdemocracy および education への言及箇所を、昨年度よりも範囲を広げて検討するとともに、それをアンベードカルの著作や思想形成、運動と対応させようと試みた。昨年度の検討で、Deweyの民主主義論がアンベードカルの思想にとってきわめて重要な位置を占めていることが明らかになったが、本年度の主要な成果は、それが、かれが独立後のインドのイメージを作る際にも重要な役割を果たしたのではないかという仮説を構築し、この観点から資料を検討したことである。来年度もこの作業を継続する予定であるが、ある程度の材料を得ることができた。 また、『世界歴史大系 南アジア史4』(山川出版社、近刊)の編集を本年度でほぼ完了したが、「第4章 独立インドへの道」と「序章 近現代南アジア史の課題」を自ら執筆する過程で、アンベードカルの民主主義論がインド近現代史全体にとって持つ意義を多面的に考察する機会を得た。この作業も、今後、本研究の成果にも生かしたいと考えている。 なお、本年度も、東京にたびたび出張し、アジア経済研究所や政策研究大学院大学の図書館において調査を進めるとともに、2016年3月にイギリスに出張し、主としてロンドン大学図書館において、アンベードカルを論じた二次文献をできるだけ広く検討しようと試みた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には、アンベードカルの著作の読み込み作業を完成させる。作業を加速させるには、これまでバラバラにプリントしてきた該当箇所を比較検討するため、系統的にプリントしなおす必要がある。予算の一部をこの作業に充てる。 年度の後半に、関連研究者とアンベードカルの思想についてのワークショップを開催して、本研究の成果とつきあわせる。そして、それを踏まえて、論文の執筆に進みたい。また、本研究の前提となる(研究計画で論じた)インド民主主義の歴史学的把握について総括的な把握を文章にするとともに、インド近現代史における社会主義、社会民主主義、民主主義の相克、関連についても本研究の視点から考察を進めたい。 本年度と同様、龍谷大学の研究会やワークショップに参加するとともに、アジア経済研究所や政策研究大学院大学の図書館において調査を進める。また、研究協力者である舟橋健太氏、田辺明生氏、Sugata Bose氏、Ayesha Jalal氏などとの交流を引き続き行うことによって文献渉猟を補足し、その結果も見ながら、本年度後半にイギリスの大学図書館で最終調査を行うことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の仕事の大部分は、すでに公開されているウェブサイトで入手できる大量のアンベードカルの著作の分析だったので、東京の図書館を利用して周辺の文献を収集しつつ、研究を進め、2月にイギリスに出張したときに、まとめて英語の新刊書や周辺文献を補充する計画であったが、ケンブリッジ大学でのセミナーに参加できることになり、その準備で手一杯になったので、図書館でとったメモにもとづいた本の注文は29年度にずれこんでしまった(約25万円を予定)。 また、耐用年数からして更新の時期にきていたパソコン(デスクトップ)を買い替えることを予定していたが、年度末に希望の機種が入手できず、現在のパソコンも一応稼働していたので、この費用(約30万円を予定)も29年度にもちこさざるをえなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
パソコンについては5月中に買い替える予定である。本や資料の注文は、研究の進展を見ながら行っていくが、すでに必要な情報は集まっている。29年度後半にワークショップを予定しているので、繰り越しの予算があることはたいへんありがたい。
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