申請書に記した三つの目的について述べると、①「文献のサーベイ」では、ロンドン大学、アジア経済研究所、政策研究大学院大学の図書館において、アンベードカル研究、デューイ研究、アンベードカルとデューイの思想的な関係についての研究の三つの分野で、それぞれ一定の知見を得た。②「史資料収集」では、検索ツールを用いながら、アンベードカルの著作集(Writings and Speeches)とAmbedkar PDFの関連個所を丹念にたどった。③「成果の発信」では、大きな枠組(インド民主主義の源流)については、長崎編『世界歴史大系 南アジア史4』(山川出版社、近刊)で概要を述べた。本研究の具体的な内容は、2016年に専修大学で報告したあと作業を進めたが、関連文献が膨大で、アプローチも多岐にわたるため、期間内での刊行にはいたらなかった。2018年度中に見通しをつけたい。 現在執筆中の論文(「アンベードカルにおける社会・教育・民主主義-デューイ思想の受容と新しいヴィジョンの構築」)では、予定していた教育と民主主義の二つのテーマにおけるデューイからアンベードカルへの影響の検討に加え、アソシエーション論を核とするデューイの社会論と、それを解釈したアンベードカルのカースト社会論の二つの思想の関係を検討し、アンベードカルが付け加えた社会の解釈(とくにanti-socialな行いへの執拗な注目)のなかに、独自の民主主義論の構想が胚胎している、と論じている。 なお、2017年度の活動を補足すると、10月にロンドン大学図書館で(アンベードカルに直接関係のない)デューイの著作およびデューイの研究書を紐解き、デューイのアジア(日本、中国)との関係、第二次大戦期の活動など、本研究のテーマと間接に触れ合うテーマを概観した。また、2018年1月にスガタ・ボース・ハーバード大学教授を龍谷大学に招き、意見を交換した。
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