本研究は、朝鮮交通史研究の基盤整備の一環として、①15~19世紀の朝鮮における水陸交通路、②朝鮮伝統船の特質、③これらの交通路および交通手段を利用したヒトとモノの移動の実態をそれぞれ考究することを目的としている。 本年度は、前年度に引き続き、本研究課題遂行の基礎作業として、韓国および日本国内で、既刊資料を中心に、朝鮮歴史地理関連資料、朝鮮伝統船関連資料の調査を行った。収集した朝鮮歴史地理関連資料および朝鮮伝統船関連資料についてはデータベース化を進めている。同時に、古地図を含む前近代の文献資料にあらわれる地名の収集作業を進めた。 歴史地理関連資料については、2018年10月に韓国国立中央博物館およびソウル歴史博物館で資料収集を行った。特に国立中央博物館では、朝鮮時代の古地図、地誌を中心とする資料260点余りを閲覧する機会を得るとともに、李秀美氏(同館美術部長)、蒋尚勲氏(同館展示課長)から情報提供を受けた。当時の移動、交通を考える上で重要な地図資料として、多様な形態の「袖珍本地図」(朝鮮時代の人々が旅行時等に利用した携帯用の小型地図)を調査できたことは重要な成果である。 朝鮮時代の交通史に関しては、2019年1月に開催された朝鮮史研究会関西部会例会で、高東煥著『韓国前近代交通史』(トゥルニョク、ソウル、2015年)の書評報告を行った。韓国における交通史研究の第一人者である著者が、韓国前近代交通史に関する膨大な既存研究の成果を消化した上で、これを体系的に整理した通史であり、学界に寄与する所が大きい。 最終年度に当たり、これまでの研究成果の一部として、17世紀の朝鮮士人の船旅に関する記録を分析した論文「一七世紀朝鮮士人と洛東江――『寒岡先生蓬山浴行録』を中心に――」を『朝鮮学報』第249・250輯合併号(2019年1月発行)に公表した。
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