研究課題/領域番号 |
15K02922
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研究機関 | (財)古代オリエント博物館 |
研究代表者 |
津村 眞輝子 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 研究員 (60238128)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 境界域 / サーサーン朝ペルシア / ローマ / シリア / ユーフラテス川 / 貨幣 / 埋葬施設 / ビザンツ帝国 |
研究実績の概要 |
本研究は、西アジアや中央アジアのように様々な政権が栄枯盛衰した地域で,地域の「境界」(支配領域の接点)、時代の「境界」(政権誕生期または滅亡期)で、どのように文化や制度が共存し、変化していったのか。それを出土資料などをもとに検証することが目的である。特に国境域を越えて移動する貨幣や、境界域においてこそ複雑となる度量衡制度に注目する。 西側境界域としては、西側勢力(ローマ帝国、ビザンツ帝国)と東側勢力(アルサケス朝パルティア、オスロエネ、サーサーン朝ペルシアなど)との勢力争いの場となったユーフラテス川中流域のシリアに焦点をあて、テル・ミショルフェという砦から出土した資料を再検討した。2015年度にローマ辺境からの出土例のある分銅が利用されていたことが判明し、この地が少なくとも一時的にローマ側の砦であり、ローマの度量衡制度が持ち込まれていた可能性を示した。2016年度は、これをふまえ、周辺の埋葬地域の遺構および出土資料の再検討を実施した。貨幣や度量衡制度に直接結びつかないが、当時の居住者、支配者等の実態を把握するために出土資料、特にランプや装身具などの資料の再調査を進めた。その成果の一部をヘレニズム・イスラーム考古学研究会や日本オリエント学会などで報告した。 東側の境界域としては、サーサーン朝ペルシアの貨幣の中央アジアや中国からの出土資料などを中心に調査を進めた。その成果は一般向けの雑誌に「サーサーン朝ペルシアとその境界域のコイン」として紹介した。一方、日本の沖縄から出土したコインがローマ帝国およびオスマン帝国のコインであるという結果を得た。流入経路など未確定の部分も多いが、西アジア、中央アアジアだけでなく、インド、東南アジアにも広がっていたローマ帝国の貨幣が日本からも出土したことは、今後さらにグローバルな視点での研究が必要となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サーサーン朝ペルシアの西側境界域として、ユーフラテス川流域の遺跡の再調査を進めた。直接貨幣制度や度量衡制度とは結びつかないが、習慣や文化が反映すると推測される埋葬施設からの遺物の再調査を進めた。 東側境界域としては、国境を越えて広く流通する貨幣について、中央アジアにおけるサーサーン朝ペルシアの銀貨の利用のされ方を調査する一方、あらたに日本の沖縄から出土したローマコインの調査も同時に進めた。
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今後の研究の推進方策 |
西側境界域としては、シリア,ユーフラテス川中流域の遺跡の遺構、遺物の再調査、再検討を進める。ローマの分銅が出土した砦と、周辺の埋葬施設との関係を検討することで、境界域における支配者層および地域住民との共存の実態を解明する手がかりを得たい。出土資料が代表者が所属する機関に所蔵されている利点をいかし、成分分析や年代測定なども実施していく予定である。東側境界域については、「研究実績の概要」に記した通り日本にまで拡大したことで、よりグローバルな視点で検討していく。
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